宇都宮徹壱ウェブマガジン

篠原美也子の月イチ雑食観戦記 第三十一回「その指の、その先に」

■水泳の選手は、男子も女子もみんな手がきれいだなあと。

 20年くらい前、『依頼人』という映画を映画館で見たことがあった。ジョン・グリシャム原作のサスペンスミステリー。主人公は11歳の少年で、オーディションで選ばれたという新人子役が演じていた。すこし陰のある美少年。なにより覚えているのは、顔も体もまだ子どもなのに、手が妙に大きくて、そこだけフライングしたように大人の気配が漂っていたこと。そのアンバランスさにドキドキした。

 たまたま私は昔から「手」というものが好きなので、映画のストーリーよりそんなとこに反応してしまったのだが、成長っていうのはとにかくあちこちバランスが悪いってことなんだよなあと、いま、13歳の息子を見て思うたびに、あの美しい少年の大人びた手を思い出す。ブラッド・レンフロ。やがて体も心もその手に追いついた時、たった25歳でドラッグで命を落としてしまうなんて、想像も出来なかったけれど。

 水泳の選手は、男子も女子もみんな手がきれいだなあと、常々思いながら見ている。泳ぎ終わって、インタビューに答えながら顔の水を拭う手は、どれもそれこそバランスが悪いくらい大きくて、しなやかで、女の子だったらエナメルで彩られていたり、男の子なのに驚くくらいほっそりと指が長かったり、ああ、100分の1秒先を目指して伸ばし続けている手なんだなあ、きれいだなあ、と久々にうっとりしながら、満開の桜のもと、リオ五輪出場選手の選考会も兼ねて行われた日本選手権を見た。

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