【サッカー人気3位】アビスパ戦は特別なチャンスだと思っています。ここで勝てば初…

中野吉之伴フッスバルラボ

【きちルポ】ビーレフェルト一筋13年のファビアン・クロスがついに引退。クラブとともに戦うことの尊さを教えてくれた

▼ ビーレフェルトの再出発

古豪という輝きにはそこまで固執しなければならないことなのか。

かつての栄光にすがって名前だけになってしまうクラブは少なくない。浮上するきっかけをつかむことができないまま、下部リーグを定位置としているかつてのブンデスリーガクラブがいくつもある。今までのようにはいかないことはだれの目にも明らかなのに、小さなプライドが邪魔をしてしまう。言葉だけの健全な経営と明確なコンセプトではどこかで躓いてしまうのに。

90年代後半から2000年代にかけてブンデスリーガクラブとして奮闘していたビーレフェルトは17年に2900万ユーロ(約35億円)の負債額を抱え込み、破産もやむなしとされるほどの大ピンチを迎えていた。何とかしのぎ切ることができたのは、数多くの地元企業が救済のための募金に協力したから。ドイツの中でも世間的には知られていない町なのかもしれない。だからこそそんな町を本拠地とするビーレフェルトにはどこにも負けない団結力があるし、それを乱す存在は受け止められない。

だが、ぼたんのかけ違いが続いてしまう。2季連続で降格し、1部から一気に3部へと落ちていった。歯止めがかからなければ、転がり落ちるのはあっという間だ。

20-21シーズンには堂安律奥川雅也の活躍もあり、無事1部リーグ残留を果たせたが、21-22シーズン、ブンデスリーガ17位で2部へ降格。戦力的に致し方ないことはある。降格そのものが絶対的な失敗ではない。ブンデスリーガのレベルはとても高いのだ。

だが、再昇格を誓って臨んだ22-23シーズンで2部リーグモードになれなかったのがいただけない。監督の選択も、戦い方も、監督交代もすべて間違えた。

1部からの降格チームで、昇格を目指そうとしたクラブとしてそれなりに人件費もかけたはずなのだ。2145万ユーロ(約30億円)は2部で7番目。そのシーズン2部で優勝したハイデンハイムがその約3分に1ほどの693万ユーロだったのだから、言い訳はできない。

終盤には中心選手の奥川が負傷離脱し、一気に攻撃力が低下。懸命に戦うだけではうまくいかない。ビーレフェルトは完全に戦力補強に失敗した。チーム作りに失敗した。チームとしてのパズルはまるでかみ合わない。特に守備がひどい。

最終戦に勝ちさえすれば、自動残留となるところまでもちこんだが、その試合をあっさりと落としてしまう。結局ブンデスリーガ2部16位で3部3位のビースバーデンとの入れ替え戦へ。さすがにここはクラブのために必死のプレーを見せてくれるかと思ったら、ファーストレグで0-4の完敗。

サッカーの試合だ。負けることはある。だが敗因には受け入れられるものと、そうではないものがある。フラストレーションがたまる中でも必死に応援を続けてきたファンだが、それを裏切るかのような入れ替え戦ファーストレグの内容と結果。戦いを拒否したかのようなプレー内容に、ビーレフェルトファンの怒りは最高潮に達してしまった。

そんな中一人立ち向かった男がいる。キャプテンのファビアン・クロスだ。ビーレフェルト一筋。試合後ファンのもとに一人で足を運び、必死に話しかけた。試合後の記者会見では、ファンの側に立った。

「僕がファンに怒ってるって?そんなことできるはずがない!」

クロスはファンに最大限の理解を示し、自分達のふがいなさを叱責した。ファンはそんなクロスの言葉を聞き入れた。いや、クロスのことだけをうけいれた。

監督は、「我々は全力でファンの信頼を取り戻すために戦わなければならない」と神妙な顔で語った。

セカンドレグには満員の観客が詰めかけた。前日ハンブルクでハンブルガーSV相手にシュツットガルトが1部残留を無事果たしたのを取材していた僕は、ビーレフェルトが気になりここへも足を運んでいた。ファンはチームを許しているわけではない。愛するクラブのために集まったのだ。試合前のスタメン紹介では、全選手がコールなしか、ブーイングだった。ただ一人を除いて。

クロスの名前がコールされたときだけ、ファンはいつも以上の声でクロスの名を呼び、サッカーの神「フースバルゴット」と続けた。

答えはピッチで出す。選手はよくそうしたことを口にする。クロスもそうだった。そしてこれ以上ない答えをたたきだしたのだ。8分、ペナルティエリア付近にはねてこぼれてきたボールに対して右足を一閃。強烈なシュートがゴール左へと吸い込まれる。はじけ飛ぶかのようなスタジアムの空気。クロスが完ぺきなまでに体現してくれる闘争心の表れに大きな拍手が送られる。

他の選手も必死に走り、体をぶつけ、ユニフォームを汚し、自分達の思いをプレーで表そうとした。

「ボールがラインを割りそうでも食いつき、ギリギリでボールを残さなければならない」なんて心得は言葉にするのは簡単だ。誰だってそうしようと思ってプレーをする。でも、心の弱さが出るのが人間だ。生き生きとした活動的な様子を見せることを、ドイツ語でLebenszeichenという言葉が使われる。直訳すれば《生きている証》。それがなければならないと。そしてほとばしる意志を解放し、躍動感を動きに乗せていき、それがチーム全体にダイナミックさにつながるチームは強い。

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