中野吉之伴フッスバルラボ

【現地取材】常本佳吾と西村拓真がプレーするセルヴェットFCの波乱万丈な歩み。破産からの再出発。今季まだ優勝の可能性を残す

▼ 古豪という立ち位置

セルヴェットFCスイスリーグ優勝17回、スイスカップ優勝7回を誇るスイスきっての強豪クラブだった。

《だった》と過去形なのは、2006年に財政危機による経営破産で危機的状況に追い込まれたことがあったからだ。当時の会長マルク・ロジェールは多額の負債を抱えながらも、元フランス代表クリスティアン・カランブーら著名選手を高額で獲得。経営状況は一気に悪化し、給料未払い問題にまで発展した結果、破産を避けられないほどに。ほとんどの有力選手は補填のために売却され、制裁措置として3部リーグからの再スタートとなった。

セルヴェットだけではなく、当時は欧州中でこうした責任感の乏しい経営でクラブを危機に追い込んだ例が残念ながらたくさんあった。

クラブ運営において何をベースにすべきかがブレてしまってはならないのだ。

日本語でも《捕らぬ狸の皮算用》という言葉があるが、似たような慣用句はそれぞれの国にある。ドイツ語だと「Man soll den Tag nicht vor dem Abend loben」というものがある。

直訳すると夜がくる前に日中をほめるべきではない。まだ最終的な結果が出てもいないのに、一喜一憂するべきではなく、しっかりと準備と備えをしなければならないという戒めの表現だ。

石橋を叩いて渡るくらいの慎重さが求められるところで、《たら》《れば》のどんぶり勘定で予算枠を作るのは勇敢ではなく、蛮勇でしかない。

チャンピオンズリーグに出場することで手にするテレビ収益やUEFAからの分配金はとても大きい。強豪クラブはそこでの収入を計算に入れて年間予算を組んだりするが、あくまでもそれ《出場した場合》に限られることを忘れてはならないのだ。おかしな自信で、届くかどうかもわからないものをあてに年間予算を決定するのはあまりにリスクが高すぎる。

シャルケもハンブルガーSVもヘルタもブレーメンも、かつてはCL常連だったはずなのに、シャルケとハンブルガーSVとヘルタはいま2部リーグで苦しんでいる。ブレーメンも経営方針を変えて、若手中心のチーム作りを推し進めることで、ようやくまた1部へと復帰することができた。

オーストリア・ブンデスリーガの古豪シュトゥルム・グラーツもそうだ。元日本代表監督イビツァ・オシムが指揮を取っていた時代にはリーグ、カップ優勝を果たし、CLにも出場していた。だが02年にオシムは会長とクラブの経営方針をめぐり衝突し、結果として退任している。

身の丈に合わない大型補強をおこなったために、06年に負債額は何と860万ユーロ(約111億円)にまで膨れ上がって破産。こうした様々な失敗が続いたことで、サッカー界ではクラブ経営にその道のプロが迎えられることが増えてきた。

それにしても、、、

人というのはそこまで傷つかなければ気づけないものなのだろうか。

話をセルヴェットに戻そう。経営方針をガラッとかけ、若手選手中心のチームとして再スタートを切り、2011年に1部へなんとか再昇格。ただ、この時はまだクラブとしての地力が1部でやり通せるだけのものがなかったため、2シーズンで再降格。その後1部再昇格まで7年を費やすことになった。19年に再び1部へ昇格すると1年目にいきなり4位、2年目は3位と安定した成績を残している。22-23シーズンはヤングボーイズベルンに次ぐ2位の成績でフィニッシュ。

欧州チャンピオンズリーグ予選2回戦の出場権を獲得した。2回戦ではベルギーリーグのゲンク相手に勝ち残ったが、3回戦でスコットランドのグラスゴーレンジャーズ相手に2戦合計2-3で惜しくも敗退。今季はヨーロッパリーグに出場していた。グループリーグではスラビア・プラハ(チェコ)、ローマ(イタリア)、シェリフ(モルドバ)と同組になり、勝ち点5の3位。UEFAカンファレンスリーグの決勝トーナメントへと進むことになった。ルドゴレツ(ブルガリア)とのプレーオフに勝利したが、ベスト16ではビクトリア・プルゼニュ(チェコ)にPK戦の末に敗退している。

そんなゼルヴェットで新加入選手として活躍しているのが常本圭吾、そして西村拓真だ。常本は鹿島アントラーズから昨夏に移籍。デビューから3試合目に足首のねん挫で2か月の離脱を余儀なくされたが、復帰後はレギュラーとして欠かせない存在に。一方の西村は冬の移籍で横浜Fマリノスから買取オプション付きでのレンタル移籍。加入5試合で4得点を挙げる活躍を見せ、確かな戦力として数えられている。

取材で訪れたのはスイススーパーリーグ32節バーゼルでのアウェイ戦。直近公式戦5試合連続未勝利と少し調子を落としているセルヴェットは勝ち点3をものにして、浮上のきっかけを作りたい大事な試合だ。

一方のバーゼルは2000年以降スイスリーグで8連覇を含む優勝12回を誇り、スイス王者として世界に名をはせたクラブ。だがここ最近は経営戦略に大きなミスがあり、今季は開幕から低迷を続け、最下位に沈む時期もあった。少し持ち直してきてはいるが、残留を果たすためにも是が非でも勝利がほしいという状況だ。

【きちルポ】中田浩二や柿谷曜一朗がプレーしていたスイスの強豪バーゼルが降格危機?!かつてのCL常連クラブに何が起こった?①

【きちルポ】中田浩二や柿谷曜一朗がプレーしていたスイスの強豪バーゼルが降格危機?!かつてのCL常連クラブに何が起こった?②

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