【現地取材】鬼才ラルフ・ラングニックの監督哲学。指導者経験だけではないキャリアがいまの彼を作り上げた
▼ 完全主義者のプロフェッサー
優れた指導者はいろんなところにたくさんいる。僕自身様々な指導者から数多くのインスピレーションをもらい続けているが、インタビューでのこぼれ話やさりげない一言に思わぬヒントが隠されていたりするものだ。
直接話をかわせなくても、世に出ている記事やインタビュー動画は本当にたくさんある。メディアというのは本当に使い方次第なのだと思わずにはいられない。
そんな多大な影響を受けた指導者としてラルフ・ラングニックの名前をあげないわけにはいかない。
プロフェッサーの異名を持つラングニックはドイツサッカーのベースを根本から変えるだけのことをした指導者といっても過言ではない。戦術への考え方そのものを変えた存在だ。2000年代初頭の育成改革でも大きな役割を果たしていたし、それ以降のザルツブルク、そしてライプツィヒで見せた手腕には驚かされるばかりだ。
ただとても優秀だが、異色な指導者でもある。優秀すぎるから異色に見えてしまうのかもしれない。
《現状で自分達がやれる、やれない》ではなく、《目的を明確にしたうえでやらなければならない大切なことがあるなら、それをなしえるためにどうしたらいいか》という視点でとらえて、そのプロセスを可視化させることができる。
そのためにはこれまでの常識とされていたものすべてを覆す決断もいとわない。
それを勇断ととらえるか、蛮行と眉をひそめるのか。保守的な考えが少しでもあると、それはあまりにも特質なものに移るのだろう。
余談だが、ドイツサッカー協会ではドイツ代表監督候補としてラングニックと交渉にあたることはなかったそうだ。
「ドイツサッカーは低迷期に落ち込んでいるが、取り組み全てが間違っているわけではない、すべてを改革する必要はない」という考えは理解できる。実際にその通りでもある。
でもだから微調整だけで大丈夫というのも少し臆病すぎるという気持ちもある。傷口に塩を塗り込んででも、ここ10年間の失敗全てを徹底的に分析するだけのことをしてほしいという願いも持っていた。
これは僕に限った話ではなく、ドイツのサッカー界で真摯にサッカーと子供たちの現状とに向き合っている人ならだれもが思うことではないだろうか。
いずれにしてもラングニックはオーストリアサッカー協会に代表監督として迎え入れられた。1年9カ月がたち、オーストリアは24年ドイツで開催されるヨーロッパ選手権への出場権を確保しただけではなく、そのダイナミックでアトラクティブなサッカーで国民を見事に魅了している。
識者の中には本大会におけるダークホースとして高い評価をしている人も少なくない。
そんなラングニックが7月の国際コーチ会議に参加し、壇上インタビューを受けていたので、その時の模様をお届けしたいと思う。
鋭い視点でエッジの利いた言葉の数々は読んでいてとても刺激的だ。
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