中野吉之伴フッスバルラボ

【対談】レネ・マリッチとの対談から考える「サッカーというチームスポーツで個々の特徴を発揮するために大切なこと」①

▼ 現場に必要なのは戦術だけではない

サッカーは極めて総合的な要素が求められるスポーツだ。特に昨今のモダンサッカーでは、選手それぞれに高い総合力が必要とされている。育成年代から包括的なアプローチが必要不可欠なのは、世界における育成シーンを見ていてよくわかる。

一方で選手には個々それぞれに特徴がある点をおざなりにしてはならない。そしてやるべきことが増えれば増えるほど、選手それぞれが自分で磨く要素が少なくなっていくという現象が起こりやすい。ここは注意しなければならない大事な点だろう。

特徴はそのままではポジティブなものにはならず、サッカーというスポーツを理解し、チームスポーツという特性を考慮し、その中で自分の特徴をどのように発揮したら、チームの武器となりうるのかを考えることがとても大切なのだ。

だから何か一つのことだけをやっていたらサッカーにプラスになるかというとそういうわけでもない。例えば、ドリブルを生かすためにはサッカーを知らなければならないから。サッカーはチームスポーツだ。

戦術論もそうだ。

サッカーに戦術はあって当たり前のもの。幼少期のサッカーにでも駆け引きがあり、サッカーのメカニズムがあり、だからこそ戦術だってある。でも戦術とは小難しい言葉でわかったようなことを言い合うことではないはず。

考えるためのヒントであり、その基準を少しずつ身に着けていくべきということ。そのためにはサッカーというスポーツがどういうスポーツで、どんなルールで、どんなプレーが求められているかを、その子たちの年齢、成長具合に応じて、実感できるように考慮されなければならない。

戦術はサッカーにおいて本質的な要素ではあるけど、だからといって戦術だけが決定的な要素になったりもしない。戦術を実践するためには身のこなしが必要だし、ボールスキルだって大切だ。試合状況に左右されないメンタリティだって欠かせないし、互いに信頼して支えあうチームワークがないと機能さえしない。

そのあたりを正しく理解していない指導者が少なくないというのは世界中いろんなところで観察されていることであり、僕もドイツや日本などいろんな現場でいろんな人と議論しているし、とても懸念されている。

そんな点において以前、レネ・マリッチと対談をしたことがあった。2020年だった。マリッチは戦術理解に優れた指導者として有名で、ザルツブルク、ボルシアMG、ドルトムントでマルコ・ローゼ監督の右腕として活躍。

今季は元ザルツブルク、ライプツィヒ監督のジェシュ・マーシュ監督のもとプレミアリーグのリーズユナイテッドでアシスタントコーチをしていた。

深い戦術理解をベースにしたアプローチが強みなのは間違いないが、だからと言って戦術だけですべてをかたずけられるとは思っていない。そんなマリッチとの対談内容を加筆・修正・再構成して紹介したいと思う。

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