中野吉之伴フッスバルラボ

【ドイツ便り】ドイツU21がU21欧州選手権で優勝できた背景を探る。本当にドイツにはタレントがいないのか?

2015年チェコで開催されたU21欧州選手権取材時の写真

▼ タレント不足と呼ばれていたドイツが優勝

2021年スロベニアとハンガリーの共同開催となったU21欧州選手権で優勝を果たしたのはドイツU21代表だった。ドイツサッカー界にとってはとても喜ばしいニュースだし、SNSでもメディアでも大きく取り上げられ、絶賛の声であふれている。

でも、今回のドイツU21代表は優勝候補どころか本戦出場すらも危ぶまれていたチームだったことを知っているだろうか。

ドイツでは若手の伸び悩みがずっと問題視されていた。ブンデスリーガ、2部で主力としてプレーしている選手がほとんどいなかった。

例えば2016年のリオ五輪に出場したドイツ代表では、オーバーエイジを除いた15人中13人が所属クラブのレギュラで、うち11人が1部。ちなみにレギュラーを取れていなかった残りの2人も当時RBライプツィヒでプレーしていたゼルケ(現ブレーメン)とアーセナルのニャブリ(現バイエルン)というのをみると、選手層の厚さは相当のものだったというのはうかがえる。

で専門家はそこと比較し、現在のドイツサッカー界が置かれた状況を危機感たっぷりに口にする。

《10月に行われたU-21代表の試合に招集された23人中、所属クラブでレギュラーを取れている選手は10人。そして1部所属のレギュラーは4人しかいなかった!》

数字を出されると雰囲気が出てくる。そして思う。これは危機だ。あまりに少なすぎる。ドイツサッカー協会(DFB)で世代別代表チーフを務めるヨティ・シャツィアレクシウは「長年、育成年代で働いてきて、すべての世代を知り尽くしているつもりだ。現時点では正直、他のトップネーションにいるような高いクオリティをもった若手は出てきていない」と苦言。

現場で選手と一番近い位置にいるU21代表監督シュテファン・クンツも「選手が所属しているリーガのレベルとそれぞれがどれほどプレー機会を得ているかを調べると、考えなければならないことが出てくる。赤信号が灯っている以上に危険な状況だと言わざるを得ない」と警鐘を鳴らしていた。

16歳でプロデビューのユスフ・ムココ(ドルトムント)のほか、17歳でプロデビューのフロリアン・ビルツ(レバークーゼン)とジャマル・ムシアラ(バイエルン)という逸材はいる。でもそれ以外の選手が…のような空気があまりに重く漂ってしまっていた。

これは数年前の話ではない。昨年10月の段階の話だ。

確かに10月はU21欧州選手権予選ではベルギーに2敗を喫し、本戦出場はもう無理とさえ思われていたころだ。指摘されていた通り、所属クラブでなかなか出場機会をつかむことができず、他国と比べたら小粒な選手ぞろいといわれてもしょうがないような状況ではあった。

ベルギーが終盤に取りこぼしをしたおかげもあり、何とか粘り強く出場権を獲得することはできたが、だとしてもあれから8か月後にU21欧州選手権で優勝するとはだれが思っていたことだろうか。

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