中野吉之伴フッスバルラボ

「審判なしでサッカーをすれば子どもはサッカーがうまくなるのか」という誤解。視点を変えないと物事の本質は見えてこない

▼Kindle版の配信がスタート

17年11月に発売された拙著「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」はおかげさまで各方面から高評価をしていただき、18年サッカー本大賞では優秀賞に選ばれました。ドイツにおける育成現場での取り組みを実体験をもとに、親としての目線、指導者としての目線、そして子どもからの目線と様々な角度から書いた一冊です。サッカートレーニング理論といったこと以上に、大人として、親として、指導者としてどのようにあるべきか、どのように子どもと接するべきかを丁寧にまとめ上げてみました。

この度Kindle版での配信もスタートになったということで、今回はこの本の内容を参考に育成、子育てにおける大事な点を改めて探ってみたいと思います。

▼小学校低学年での7対7試合形式に対する疑問

私たちは誰もが日常生活の中で「決めつけ」をしながら生きている。常識として習慣化されたものを疑うことは難しいし、一つ一つを毎回取り出して精査していくのは面倒だ。意識して考えるには相当のエネルギーが必要だ。そしてエネルギーが必要なことに取り組むためには、それなりの時間がなければできない。でも私たちには毎日やらなければならない作業が山のようにあったりする。だからみんな可能な限りのことを無意識化に動けるように、物事への解釈を自分の中でどんどん簡略化して、どんどん自然にフィルターを通すようにしていく。

現状世の中には様々な理不尽や不合理なことがあふれている。ちょっと考えれば誰にでも気づくようなことなのに、手をつけられずにそのままにされていることのなんと多いことか。SNS上ではいろんなことが議論され、指摘され、批判される。でもそのほとんどすべてに対して多少の不満を感じながらも、結局のところ受け流してしまう自分たちもいるわけだ。

だから何かを変えようとするためには、「なぜ変えなければならないのか」「そして変わったらどれだけのメリットがあるのか」を可能な限り論理的に証明し、そして可能な限り情動的に訴えることができなければならない。

先日日本からドイツに来ていた倉本和昌さんと一緒に訪問したミッテルライン地方サッカー協会の育成責任者の一人オリバー・ツェッペンフェルトさんがこんな話をしてくれた。

U6からU9までの子どもたちに大切なこと。遊びながらいろんなことが身につけられる「サッカー祭り」を開催しよう!

同地方ではどんな子でもサッカーが楽しめる環境を作ろうと考え、14年から幼稚園児や小学校低学年年代においてはサッカー大会ではなく、サッカー祭りとして開催するところが増えてきているという。その最たる理由はそれまで一般的だった7対7の試合形式に対する疑問があったからだ。

ツェッペンフェルト 試合データにおける研究をしてみたことがあります。7対7でプレーする14人のうち、この中でうまい4人が全体のコンタクト数の80%を占めていたんです。80%ですよ。つまり他の10人を合わせても、全体のわずか20%のコンタクト数しかできないでいたんです。

上手い子が上手くなるためだけのサッカー環境ではサッカー界はどんどん先細りになってしまう。ほんの少し早熟でほんの少しフィジカルに富んでいる子どもばかりがチヤホヤされているのは健全とは言えない。

誰がどのように成長するのかを子どもたちが小さい段階で決めつけることなんて誰にもできるはずがない。だからこそ協会として取り組むべきは、どんな子でも成長することが実感できる試合環境とトレーニング環境だ。ツェッペンフェルトさんも非常に熱っぽく話してくれた。

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