中野吉之伴フッスバルラボ

ドイツのサッカー人口は全人口の2割。なのに子どもの8割は運動不足?SCフライブルクの地域貢献とは

こんにちは!ゆきのです。水曜日の無料コラム、今週は先週紹介したドイツのクラブ活動“AG”について、もう少し掘り下げて書いてみたいと思います。

(DragonOneさんによる写真ACからの写真 )

AGは、学校に通う子どもたちに放課後の様々な活動の場を提供しようという活動で、ドイツ全体で広く行われています。放課後の学校やスポーツ施設などが活動場所として使用され、学校単位で行われていますが、運営や指導にあたるのは学校の教職員ではなく、ボランティアや学校の後援会などが主体となっているのが特徴です。

先週のコラム末尾でも触れましたが、フライブルクの地元プロチームであるSCフライブルクは、このAG活動に積極的に関わっています。“SC Freiburg – mehr als Fußball” (サッカー以上のものを)というスローガンのもと、SCフライブルクは様々な社会活動を通じて地域に貢献しようとしていますが、AGの支援はその一環。SCフライブルクの育成スタッフが小学校を訪れ、ボールを使った様々な遊びを提供することで、子どもの健康な心身の発達をサポートしようというものです。現在、フライブルク市内の10校がSCフライブルクの支援によるAG活動を行っています。

(Foto: Patrick Seeger / SC Freiburg公式サイトより)

SCフライブルクのAG活動紹介ページによれば、なんとドイツの子どもの80パーセントが運動不足の傾向にあるとのこと。週の半分以上はサッカーに明け暮れる我が家の子どもとその友達を見ていると、それ本当なの?と思ってしまう数字ですが、確かによくよく観察してみれば、サッカーも体育も大好きだけれど試合や練習の送迎はいつも親の車で、普段はあまり歩かないし自転車にも乗らない…という子どもは、サッカークラブの中にも実は結構いたりします。我が子の周辺からさらに外側へ目線を広げてみれば、定期的に身体を動かすという習慣がない子、身体を動かしてはいてもその量も質も充分ではない子は相当数いそうです。

世界の先進国に共通する傾向として、子どもの数自体も、子どもが自発的かつ安全に遊ぶことのできる場所や機会もどんどん減ってしまっているので、子どもが自然と道端や空き地に集まっては気ままに走り回るといった、かつて見られたような光景は、特に都市部では非常に少なくなってしまっています。家族の多様化が進む現代では、屋外で自由に遊ぶ子どもを大人が見守るということもまた、時として難しくなってきています。

(makieniさんによる写真ACからの写真 )

SCフライブルクの取り組みをはじめ、AG活動を充実させようという動きの裏側には、子どもたちに気軽に運動に親しんでもらえる場を提供したいという大人の切実な願いが込められています。普段スポーツに親しんでいない子どもに、体を動かしなさい!と急に叱咤しても意味がありません。まずは気楽に楽しめるボール遊びから。入口が学校であればアクセスも気楽です。地域のスポーツクラブは本格的すぎて敷居が高いとか、とりあえずちょっと身体は動かしたいとか、そんな子どもや親でもすぐアクセスできます。

運動不足をなんとかしましょう!という威勢のよいスローガンだけに終わるのではなく、運動不足気味な子どもたちが実際に運動できる環境を整えて、そこへアクセスできる現実的な道をきちんと作るという試みは、非常に素晴らしいと私は思います。

余談ですが、日本では少し前に、スポーツ庁が行ったキャンペーンが炎上するという一件がありましたよね。某人気番組のキャラクターが、運動不足になりがちとされる2040代女性 に向けて、「ボーッと生きてんじゃねーよ!」 というおなじみの決め台詞を放つという内容でしたが、2040代女性の実情はボーッとしているどころか、仕事に育児に家事にと多忙で、運動どころではないというのが正直なところ。私自身もまさしくこの年代の女性なので、ボーッとしてる暇なんてないという実感は身に沁みています。もし真剣にこの年代の女性の健康や体力維持を考えるのなら、女性の負担を少しでも減らした上で、多忙であっても地道に体を動かせるような、他の現実的な取り組みが必要だと思うんですが、いかがでしょうか。

(kankanmamaさんによる写真ACからの写真 )

ドイツは全人口に対するサッカー人口が約2(参考:【国別ランキング】世界のサッカーの競技人口は?FIFAランキングとの関係も徹底解説!)と、世界の中でも突出してサッカー人口の高い国です。にもかかわらず、一方で大多数の子どもたちが運動不足に悩んでいるという実態もあります。地域のトップに立つプロクラブとして、SCフライブルクは将来有望な選手の発掘や育成も当然行っていますが、一方ではこのように、教育機関と提携して、一見サッカーとは縁の薄い子どもたちへの支援にも力を入れています。一部のサッカーが上手い子や、サッカーに熱心な子どもだけを伸ばすのではなく、より幅広い視野に立って、より多くの人が「体を動かす」ということをシンプルに楽しめる環境を作る。それがこの国のサッカーを含めた社会の一つの根幹になっているのではないでしょうか。

今週もお読みくださりありがとうございました。来週もよろしくお願いいたします!

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