ボールをキープすることがポゼッションの目的ではありません【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】
【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】
■ボールをキープすることがポゼッションの目的ではありません
A監督は、H選手をはじめ選手全員に、口を酸っぱくして伝えていたことがありました。
「ボールをキープしながら、シンプルに前に進んで行こう。その際に、相手に簡単にボールを奪われてはいけない」
H選手は、A監督の話を聞きながら、ポゼッションの意味を考えます。H選手は、ポゼッションを「ずっとボールをキープすること」だと理解していました。しかし、H選手の理解は、ポゼッションの真の目的を見失っているものでした。H選手がそのことに気づいたは、オランダから招かれたYコーチの指摘があったからです。
Yコーチが、サイドライン近くに立って紅白戦を見ていました。Yコーチは突然に、大きな声で試合を止めます。H選手は、自分の前のスペースが空いているのに、横にいる味方の選手にパスを出した瞬間でした。
Yコーチは、H選手に詰め寄りながらこう叫んだのです。
「君はいったいどこを目指しているんだ!」
H選手は答えます。
「もちろん、ゴールです」
Yコーチは、すぐさま言葉を返します。
「じゃあ、ゴールに向かいなさい」
そう言って、敵陣のゴールを指差しながらこのように話しました。
「ポゼッションを志向していると言って、ボールをキープしていても、ゴールに辿りつけなかったら、まったく意味がないことなんだよ」
Yコーチの指摘の後に、H選手は、ボールを持ったら前を向いてパスコースを探しながらプレーするようになりました。
ポゼッションの目的は、ゴールを奪うことにあります。ゴールを奪うというサッカーの本来の目的を忘れて、ポゼッションをしていたとすれば、たとえ1 本のパスを出したとしても、そのパスはまったく意味のないパスになってしまうのです。ポゼッションを志向していても、ゴールキーパーからの1本のパスでゴールを奪えたら「それは価値があるプレー」だと考えます。つまり、ボールを回して回してというのをポゼッションとは言いません。無駄なボール回しをけっして行わない。H選手の横パスは、Yコーチから見たら「無駄なボール回し」に映ったのです。だから、練習試合であっても、プレーを止めて注意したのでした。
ポゼッションと言った場合、ボールをキープしながら前に進むということが重要になってきます。そのために、あえてマークされている味方の選手にボールを出して、相手選手を引き寄せておいて、その味方の選手を経由することでフリーの味方の選手を作ることをします。そして、フリーになった選手にボールが渡り、その選手は前を向いてゴールを狙っていけるのです。2手3手先まで読んだ意図のあるパス交換が行われなければ、ポゼッションサッカーとは言えないのです。
A監督とH選手の登場は、以下から始まっています。
川本梅花