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【無料公開】ブラジル人元Jリーガーが大集合! 僕らが日本サッカーに感じること<2/2>

クルピ「2050年にワールドカップで優勝する? 日本が?」

サンパイオ 「時代の変化」というのも、今のサッカーを考える上で非常に重要なテーマだと思います。この件に関してのレヴィーの意見は? 監督という立場だと、やはり過密日程という問題は看過できないと思いますが。

クルピ 私はプロとアマチュア、両方で指導者の経験がある。その観点でいうと、今のブラジルはリーグ戦とトーナメントのスケジュールが、昔に比べて過密に過ぎると思う。原因はやはりTV放送だ。月曜から日曜日まで、昼も夜もどこかしらで試合をやっている。当然、怪我のリスクもあるし、技術面でもクオリティに低下にもつながっている。

カレカ もうひとつ問題点を挙げると、ブラジルからヨーロッパに行く選手がどんどん若くなっているのが気になるね。僕自身はグアラニ、サンパウロとプレーして、ナポリに移籍したのは26歳のときだった。もともと親からもらった瞬発力に加えて、トレーニングのおかげで技術とスピードを手にすることができたからこそ、イタリアでも通用することができたと思う。今は名前を覚えた若い選手が、すぐさま欧州に引き抜かれてしまうから、ファンもスタメンの予想ができなくて困っているよ(苦笑)。

クルピ そういえばコリンチャンスのU-14の金の卵が、アトレティコ・マドリーに移籍することが決まったようだね。そういうことが、ブラジルのあちこちのクラブで起こっている。われわれの時代は、トレーディングカードで選手の名前とポジション、プレースタイルはすべて暗記していたけれど、今はそんな余裕もない。若い才能を根こそぎ持っていかれて、国内の若手はどんどん劣化してしまっているよ。

サンパイオ ヤスさん。ブラジルではこのように、若くしてヨーロッパに引き抜かれているわけだけど、日本代表の選手たちもほとんどが海外でプレーしているよね。今大会もそうだけど、日本がグループステージ3試合で終わったのは、連携や連動性に課題があったからかな?

三浦 それについては、少し説明が必要ですね。今大会の目標について、日本は「優勝」とは一言も言っていないわけですよ。おそらく森保監督が目指していたのは「1試合でも多く戦う」だったと思います。日本の目標は、来年の東京五輪で金メダルを獲得することであり、そのために22歳以下の選手たちを参加させたわけです。

 ところが初戦でチリに04で敗れてしまった。そこで「若手に経験させる」という方針をいったん取り下げて、次のウルグアイ戦ではOA(オーバーエイジ)の選手を5人も使うことで、22という結果を遺すことができた。けれども残念ながら、最後のエクアドルには勝ちきれなくて、結果として3試合で大会を去ることになってしまったと。

 今の質問に戻ると、日本の選手が若いうちからヨーロッパでプレーするのは、決して悪いことではないと僕は思っています。そのことで代表チームの連携が難しくなるデメリットはあるけれど、それはもう代表監督がなんとかするしかない。ブラジルでもそうだと思うけれど、国内組と海外組を融合させることが、今の代表監督の仕事だと思う。

 じゃあ、なぜヨーロッパでプレーする選手が増えることが望ましいのか。日本の直近の目標は東京五輪での金メダルだけど、さらに遠大な目標として「2050年にワールドカップで優勝する」というのがあるんです。ブラジルの人が聞いたら笑われるかもしれないけれど、JFAはそう宣言している。もちろん簡単なことではないけれど、そこに向かって日本サッカーは進んでいるんですよ。

クルピ 2050年にワールドカップで優勝? 日本が? 聞き間違えではないよね(苦笑)。

サンパイオ 確かに2050年と言ったよね。この件についてもいろいろ話したいけれど(笑)、最後に僕自身の話をしてから質疑応答にしょう。実は僕もビスマルクと同じで、最初は欧州でプレーすることを願っていた。1994年のワールドカップではセレソンに選ばれなかったので、「次の大会こそは」と思っていた時に日本からオファーがあった。

 確かに金銭面ではいい話だったけれど、日本に行くことはセレソンを諦めることと同義だったから悩んだよ。でも、何が幸いするかわからない。マウロ・シルバが怪我で代表を離れた時、僕を推薦してくれたのはジュビロ磐田でプレーしていたドゥンガだった。おかげでセレソンにも招集されて、98年のワールドカップにも出場できた。

 今にして思えば、僕は横浜フリューゲルスというクラブでプレーしたおかげで、ワールドカップ出場という夢を果たすことができた。私生活でも、日本で子育てできたことは素晴らしい経験となった。僕と日本を引き合わせてくれた神様には、今でも感謝しているよ。

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