宇都宮徹壱ウェブマガジン

蝙蝠とバラの街で胎動する「令和型戦略」 福山シティフットボールクラブ<2/2>

蝙蝠とバラの街で胎動する「令和型戦略」 福山シティフットボールクラブ<1/2>

<2/2>目次

*コロナ禍の危機とクラウドファンディング立ち上げ

*22歳の監督を推薦した外部テクニカルアドバイザー

FC今治といわきFCの長所を併せ持った後発クラブ

コロナ禍の危機とクラウドファンディング立ち上げ

 福山SCCから福山シティFCへ。それは、単なるリブランディングの話ではとどまらない。代表の岡本は「2019年で土台を作り、今年は勝負の年と捉えていました」と語る。練習拠点を広島市内から福山に移し、選手の住環境や雇用先も確保した。スポンサー企業の数も、前年の60社から倍の120社に増加。クラブの年間予算についても、1000万円から8500万円という着地点を設定していた。しかし、突然の暗転。

「新型コロナの影響で、決まりかけていたユニフォームスポンサー案件が相次いで白紙となって、5000万円が吹き飛ぶこととなってしまいました。もう、頭の中が真っ白になりましたよ。加えて今季は、積極的な選手補強をしていたのに、県リーグの開幕も不透明。今だから言えますが、一時は真剣にチームの解散も考えましたね」

 それを思い留まらせたのは「先義後利(せんぎこうり)」という、クラブが大切にしてきた倫理であった。意味は「道義を優先させ、利益を後回しにすること」。コロナ禍で苦しんでいるのは、自分たちだけではない。ならば、まずは先義後利に振り切って行動しよう。そして振り切った先に、光明があるのではないか──。幸い、副代表の樋口も同意見だった。

 さっそく取り組んだのが、経費の削減。人件費や経費を極限まで切り下げ、事務所の家賃も無料にしてもらった。その一方で、持続化給付金をはじめ、県や銀行からも協力金や融資を引き出すことに成功。まだ実績もないクラブに対して、地元の行政も経済界も大いに期待を寄せていたことが伺える。各方面に頭を下げまくった甲斐もあり、何とかクラブ存続の目処が見えてきた。しかし、どうしてもあと500万円が足りない。そこで樋口が提案したのが、クラウドファンディングであった。当人の説明を聞こう。

「僕のSNS上での知り合いなんかだと、クラウドファンディングで資金調達に成功している人がけっこういたんですよね。Twitterのフォロワーが9000人で、1300万円集めた美容院のオーナーもいました。そうした事例を身近に知っていましたから、僕らのクラブにも可視化されていないファンが絶対にいると思っていましたし、500万円なら絶対に行くだろうという目算もありましたね」

 代表の岡本と副代表の樋口には、明快な役割分担がある。幅広いネットワークを駆使して、さまざまな情報やアイデアや人材を調達するのが樋口。それらを精査し、具体的に事業に落とし込んでいくのが岡本。今回のクラウドファンディングについても、樋口が全体のフレームを提案し、HPに盛り込む文面やデータについては岡本が担当した。再び、樋口。

「クラウドファンディングは、実はリターン設定が非常に大切で、 Tシャツなどのグッズは送料などのコストもかかります。なるべくコストをかけず、なおかつ支援者の皆さんが県リーグ時代から応援している証となるものをリターンしたほうがいいのではないか。だったらグッズよりも、価値のリターンをしていこうということになりました。その具体例のひとつが、ユニフォームのスポンサーになっていただく、というもの。実は100万円のパンツのスポンサーは、すでに決まりました」

 クラウドファンディングがスタートしたのは、6月9日。目標金額について、樋口は1000万円を主張したが、達成できなければゼロとなるルールがあったため、500万円に落ち着いた。実際に蓋を開けてみると、わずか3日目で500万円を達成。セカンドゴールとして、新たに800万円に設定したが、これも7月15日にクリアした。同時期、関東リーグ1部の東京23FCも、同じく500万円を目標にクラウドファンディングを行っている。達成できたのは、開始から39日目。まさに最終日ギリギリのタイミングであった。最初の目標達成の感慨について、岡本はこう語る。

「あの時は『ありがとう』や『感謝』以上の言葉が思い浮かびませんでしたね。クラブのビジョンや理念を言語化するのは、僕らの重要な仕事のひとつですが、どう表現していいのかわからなかった(苦笑)。おそらくご支援いただいた方々は、僕らが発信してきたビジョンや理念に共感して、われわれが福山で作ろうとしている未来、あるいは日本サッカー界の未来のために投資していただいたのだと思っています。そのことをうれしく思うと同時に、身が引き締まるような気持ちでもありますね」

 福山シティFCのクラウドファンディングは、7月31日に終了。支援総額は876万円、支援者数は535人であった。特徴的なのは、広島県外からの支援者も多かったこと。しかもFC今治やガイナーレ鳥取やファジアーノ岡山といった他クラブのファンやサポーター、さらには現役選手やクラブスタッフからの支援もあったそうだ。なぜ広島県1部のクラブが、他クラブの関係者から支持され、愛されるのか。この点については、最後にあらためて考察することにしたい。

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