宇都宮徹壱ウェブマガジン

「優勝したらスタジアムを作ってくれる」という幻想 トークイベント「専スタを作る自治体、作れない自治体」<3/4>

 先週に続いて、7月17日に東京・渋谷のBOOK LAB TOKYOで行われたトークイベント「専スタを作る自治体、作れない自治体」の模様をお送りする。当イベントは『J2&J3フットボール漫遊記』の出版を記念して開催されたもので、司会はちょんまげ隊長ツンさん。出演者も豪華で、私のほかに、漫画家の能田達規さん、Espoir Sport株式会社代表取締役の長岡茂さん、そしてロック総統が自治体とスタジアムの関係について激論を交わした。

 さてイベントの醍醐味といえば、やはり出演者と参加者が直接コミュニケーションできることだろう。今回もさまざまなサポーターが参加し、質疑応答では積極的な質問が出演者に投げかけられた。クラブによって、スタジアム事情も自治体との関係性もさまざまだが、それぞれに強い関心と問題意識を持っていることが質問からも伺えた。準備期間が短かったため、何かと至らない点もあった今回のイベントだが、それでも開催できて本当に良かった。近々、新たなイベントも企画しているので、楽しみにお待ちいただければ幸いである。(2017年7月17日収録@東京)

<目次>

*ミクスタの指定管理者にならなかったギラ九

*成績が良ければ自治体はスタジアムを作るか?

*行政に頼らざるを得ない後発の地方クラブ

*「行政がお金を出してくれる」という発想を捨てよ!

*サッカーは地方創生の万能ツールではない?

*いわきFCはスタジアムづくりでも革命を起こすか?

■ミクスタの指定管理者にならなかったギラ九

宇都宮 あらためて長岡さんに北九州のミクスタについてうかがいたいと思います。拙著『J2&J3フットボール漫遊記』でも触れましたけど、私が現地を取材した14年当時、北九州はJ2の5位にまで上り詰めたんですよね。ところがライセンスの問題で、J1昇格プレーオフには進出できませんでした。

長岡 そうでしたね。実際、柱谷幸一監督時代は、チームの実力もどんどん上がっていったんですけど、実力以外のところで昇格のチャンスを逃してしまったと。

宇都宮 結局、昨シーズンにJ3降格が決まって、今季はミクスタのこけら落としをJ3で迎えることになったんですよね。北九州だけでなく、長野パルセイロも長野Uスタを作ったばかりだし、ガンバ(大阪)U-23も吹田スタジアムを使っています。実はJ3って、最新の専スタが3つも揃っている。

総統 後発のクラブほど、スタジアムのレギュレーションが厳しくなっているから、当然そうなりますよね。しかもこれだけクラブ数が多くなって、後発ほど少ないパイを分け合っているから伸びしろがない。ただミクスタに関しては、ちょっと個人的に心配していることがあるんですよ。あのスタジアム、海に面しているじゃないですか。

ツン クリアボールが海に落ちちゃいますよね。

総統 そういう問題じゃなくて、海から吹いてくる潮風にスタジアムの金属部分がやられるというリスクがあるんですよね。

長岡 それはずっと危惧していましたね。図面を見せてもらった時にやばいなと。カシマスタジアムも、海からあれだけ距離あるのに塩害がありますからね。

宇都宮 去年、天皇杯で久々にカシマに行ったんですけど、2階の記者席の金属部分がびっしり赤錆になっていました。あれも塩害だったんですね。

長岡 そういうことだと思います。カシマでもそんな感じですから、目の前に海があるスタジアムで本当に大丈夫なのかなと思いました。建屋だけじゃなくて、芝生もまた塩害に神経質なものですから。この1年間、ピッチ状態が無事でいられるのかどうか、非常に気になっています。

総統 今後、ミクスタは塩害による腐食や芝の育成不良が始まって、数年後にまた「改修だ、改修だ」と言い始めますよ。

宇都宮 質問を変えたいんですけども、あのスタジアム作っている過程で、自治体とクラブの関係はどんな感じだったんでしょうか?

長岡 関係で言うと、市はギラヴァンツをコンテンツとして市を盛り上げたいというところはあるんです。でも、いろいろもったいないところもあるんですよ。たとえば、あのスタジアムはPFI方式という、いわゆる民活でスタジアムを作っているんですけども、クラブ側は指定管理者に名乗りを挙げなかったんです。ですから今後15年間、彼らは指定管理者になれない。そんな中で、スタジアムを使ったクラブ独自の事業というものができないんです。

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