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【無料記事】ご隠居が心配するJリーグの未来(再) 川端暁彦(ライター・編集者)インタビュー<2/2>

■熱烈なファンによりプレミアムな価値を提供を

――ちなみにエルゴラとしては、2ステージ制に関してはどういうスタンスでいるんでしょうか?

川端 エルゴラとしては、もともと賛成でも反対でもなく「ベストな方向性をみんなで模索しましょうよ」っていうスタンスです。Jリーグって、本来はファミリービジネスなんですよ、良くも悪くも。Jリーグのサポーターを含め、みんなで考えようよっていう時に、いきなり2ステージ制なんて話が上から落っこちてきたというのが根本的な問題だと思いますよ。

――Jリーグの入場者数や収益が落ちてきているということなら、自分たちだけで抱え込むのではなく、もっとサポーターから広くアイデアを募集してもいいですよね。

川端 Jリーグの収入が減っています。その通りだと思います。でもその理由って、観客動員が減っているからでしょうか。たとえば横浜F・マリノスは、観客がちょっと増えました。でも、入場料収入が減っている。それはつまり、客単価が落ちているんですよね。でも、平均観客動員の「数字」ばかりが金科玉条のごとく掲げられて、お金ベースの議論がまったくないんですよ。平均観客動員っていう魔法の言葉だけで語られている。

――確かに入場料収入だけでは、どこも厳しいですよね。もっとスタジアムでお金を落としてもらうことを考えないと。

川端 そうなんですよね。今、広く日本の娯楽産業を見ている中で、成功している娯楽産業って、客単価を上げることに成功した事業なんですよ。熱心なファンを作るっていう第一歩は、Jリーグは成功したんですから。その熱心なファンに、多様なサービスを提供して、そのサービスに対してもっとお金を払ってもらいましょうという方向性を本当は提示すべきだったと思います。でも実際には、「もっと新しいファンを獲得しなきゃ、収入が増えない」っていう前提の中でしか戦っていない。そうじゃなくて、熱烈なファンによりプレミアムな価値を提供して、その人たちから払ってもらわないと。

 Jリーグで一番いびつなのは、一番熱心なお客さんたちが、一番お金を払ってないことですよ。シーズンシートで来ているサポーターに対して、クラブの偉い人たちは「あいつら別に大した金を払っているわけじゃないのに」っていうメンタリティが出てくる(笑)。でも、本来は逆でしょ? その人たちがお金を払いたくなる何かを、もっと創造していかないと。もちろん個々のクラブでやっているところもあるんですけど、それをJリーグ全体でもっと考えていく必要があると思いますね。

――なるほど。そこの部分の開拓は、まだまだな感じがしますね。

川端 Jリーグは「収益がない、収益がない」って言っていますけど、でもJリーグって毎週末、20万人のファンがスタジアムに足を運ぶんですよ? そんなの、どんな業界のイベントだって出来ないじゃないですか。それだけ人を集めているコンテンツがあるのに、お金がないっていうのは、話としておかしいじゃないですか。

 いずれにしても、お金儲けという言葉が卑しいっていうのが、この国の認識だと思うんです。サポーターも、スポーツマンあがりのフロントも、お金に対してすごく潔癖な人たちが多いという印象があります。極端な言い方をすれば「お金を稼ぐこと=悪」みたいなね。それはJリーグの良い部分でもあるし、僕も好きな部分です。でも、結果として「お金がないので過密日程にします。試合の質が落ちるのは仕方ない」といった結論が出てしまう現状を思うと……。

――具体的なアイデアは何かありますか?

川端 たとえば練習場に来る熱心なファンに、何かしらプレミアム感のあるものを買ってもらおうというアイデアがあっても、「練習場に来てくれるくらい熱心なファンからお金を取るなんて」という話になってしまうのはどうなのかなと。たとえば練習場に来たファンだけが、ある人気選手のグッズを購入できるとか。その限定グッズを買えたファンは幸せな気持ちになるし、クラブにはお金が入る。そして選手にもお金を落とせる仕組みがあると、今度は選手が自ら一所懸命にファンサービスをして自分のファンを増やそうと努力するようになるかもしれませんよ。いまは練習場で冷たい対応をしてしまう選手も少なくないですが、それを変えていく力になるとも思います。

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