宇都宮徹壱ウェブマガジン

なぜJリーグは世界と比べて「イケてない」のか? 村井満チェアマンによるメディアブリーフィングより<1/2>

 8月25日、JFAハウスにて村井満Jリーグチェアマンによるメディアブリーフィングが開催された。サンドイッチやスナックなどの軽食が用意された部屋で、チェアマンが語ったテーマは「Jリーグと世界との距離」。会場の雰囲気は和やかなものであったが、その内容は実に衝撃的なものばかりであった。

 きっかけはJリーグのスタッフと、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社のスポーツビジネスグループが共同で作成した『PUB Report』(以下、パブレポート)である。このパブレポート、昨年のシーズン終了後に2015シーズンを総括するために第1回が作成され、今回はその第2回。「Jリーグと世界との距離」について、さまざまな角度から具体的なデータが掲載されている。

「このパブレポートには、Jリーグにとって都合の悪いことが相当にふんだんに盛り込まれています。いかにJリーグがイケてないか。競技の側面でも、マーケティングの側面でも、スタジアムや環境面でも、いろんな観点から世界とのギャップがある」

 そうチェアマンが語るとおり、関係者やファンが見たらがっくりくるようなデータが満載。ではなぜJリーグは、こうしたデータを公開し、なおかつメディア向けにブリーフィングまで行ったのか。その理由は本稿を読めば自ずと理解できるはずだ。

 本稿は約40分間のチェアマンの言葉を、最低限の編集を加えた形で再現した。普段からJリーグに親しみを感じながらも、一方で最近のリオ五輪の結果やワールドカップ・アジア最終予選の内容に落胆しているサッカーファンには、ぜひともこの情報を共有してほしいと願う次第である。

■リオ五輪の敗戦は「Jリーグの敗戦」

 みなさん、今日はよろしくお願いいたします。9月1日の代表、ワールドカップ予選に向けた(メンバー発表)会見があるということで、1時半にはきっちり終わりたいと思います。このパブレポートを読めばわかることを説明しても仕方ないので、ここに書いていない行間のところで、私の思いをお話します。1時間もいらないかもしれませんので、残りの時間は質疑応答に使っていただければと思います。

 ちょうど今、リオ五輪が終わってワールドカップが始まるという境目のタイミングですけど、五輪サッカーに関しては非常に期待を裏切るような形になってしまいました。私もサルバドールで第3戦から合流しておりました。通常の観客席で、原(博実)さんと2人で見るような形になりました。その前日練習からわれわれは(現地に)入ったんですが、自力(での決勝トーナメント進出)が消えていても、選手の表情は非常に明るかったし、手倉森(誠)さんもメディアのみなさんも雰囲気は良かった。

 最終的には残念な結果になりました。初戦(のナイジェリア戦)であんなに失点しなければとか、あと1点取っていればとか、2戦目(のコロンビア戦)で勝ちきれていればとか。その1点の重み、勝ち点1の重みが想像する以上に世界との比較の中では大きなギャップがあるという認識でした。(第3戦が終わってからは)しばらくスタンドを立てない中、原さんといろんな話をしていました。

 今回の18名のメンバーのうち、海外組の南野(拓実)を除けば、17名がJリーグのクラブの所属でした。オーバーエイジを除く純粋の意味でのU-23は14名いたわけですけど、そのうちJ1のレギュラーでファーストステージを戦い抜いていた選手は6名でした。初戦のGK(櫛引政敏)は、鹿島アントラーズではトップチームで試合に出ていたわけではありませんし、中島翔哉くんもFC東京ではレギュラーを張っているわけではありませんでした。世界のスターティングラインナップを見ていると、トップリーグでほとんどレギュラーを獲得している。そういうような選手たちに対し、われわれは18分の6がJ1で戦っているという布陣でした。ですので、今回の戦績を見るに手倉森監督の采配がどうだとか、選手のパフォーマンがどうかという前に、このJリーグそのものの敗戦だったと私は見ています。

 そんなとぼけたことを言っていると、4年後というのはすぐ来てしまいます。Jリーグとして、どういう手を打つのかということについては、このあとの実行委員会などで議論してまいりたいと思います。いかにJ1での出場機会を若い世代が積んでいくのか。今、U-23の3チームがJ3で参戦していますけど、J1というフィールドでこの世代がどこまで実践経験を積んで東京五輪を迎えるか。この辺りも待ったなしの状況かなと思っています。

 そう考えている背景は、このパブレポートというのが下敷きにありました。ご存じのように、昨年15年シーズンに(J1リーグの)2ステージが導入され、チャンピオンシップが行われました。いわゆるファン、サポーターの間で、ものすごい賛否渦巻く中で新しい大会方式に踏み切ったわけですけども、Jリーグの責任として、15年がどういうシーズンだったのか、サッカーそのものはどういう内容だったのかというのを(シーズンを終えた段階で)即日開示して、いろんな意見をいただこうと。それで(昨シーズンが)終わって5日後に入稿して、スポンサーの色校正もろくにやらない状況で入稿するという、誤字脱字も多い大変失礼なものであったけれども、できるだけ早く皆さんに提供しようということで、第1回のパブレポートを創刊することとなりました。

 ただ、年に1回のパブレポートでは、とてもじゃないけど世界のスピードには追いつくことができない。少なくとも半年ぐらいのペースで振り返って、(検証する)素材を提供すべきだろうということで、われわれのチームのメンバーが自主的にこの夏の創刊を決めてくれました。それが、皆さんのお手元にあるパブレポートです。

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