宇都宮徹壱ウェブマガジン

過去記事:アメリカとメキシコ、それぞれの知られざる世界戦略 Jリーグメディア説明会「世界のサッカーの潮流について」<後篇>

<「徹マガ」2015年4月29日号(通巻第239号)より掲載>

前号に続いて、今月9日に開催されたJリーグメディア説明会「世界のサッカーの潮流について」の模様をお届けする。これは、Jリーグの海外視察の結果をメディアとシェアするための「勉強会」で、Jリーグ常務理事の中西大介氏がプレゼンターを務めている。前篇ではアジアサッカーのトレンドとして、中国、ASEAN諸国、そしてカタールの事例が紹介された。後篇の今回は、アメリカ、オーストラリア、メキシコに見られる「非ヨーロッパ的なトレンド」、そしてヨーロッパからはドイツとベルギーについての興味深い事例が紹介されている。

後篇に入る前に、今回の「勉強会」で個人的に感じたことを記しておこうと思う。

90分に及ぶプレゼンの中で、中西氏はJリーグの「次の打ち手」について具体的な言及をしていない。おそらく今後、JFAの方針との整合性を詰めていく必要があるからだろう(とりわけ育成に関して)。それでも徹マガでの掲載にあたり、プレゼンを再構成していく中で、Jリーグ(あるいは中西氏)が考えるロジックが見えてきたように感じた。わかりやすく整理すると、以下のようになるのではないか。

1)アジアにおける日本の優位性は揺らぎ始めている。それはアンダー世代の大会やアジアカップ、ACLの結果を見ても明らか

2)中国は自国内の巨大な市場を、ASEAN諸国は経済成長を、そしてカタールはオイルマネーによる最先端の施設や人材を強みとして、それぞれ世界にキャッチアップしようとしている

3)一方、アメリカやメキシコはプレーオフや放映権料などを原資として収益を挙げ、それぞれデジタル映像制作や育成に積極的に投資している

4)巨大な市場もオイルマネーもなく、飛び抜けた経済成長も期待できない日本としては、アメリカやメキシコの方向性をアレンジして取り入れようと考えている(?)

4番目はあくまで推定である。が、中西氏のプレゼンからは「アメリカやメキシコの事例をぜひ参考にしたい」という熱意のようなものがひしひしと感じられたので、あながち間違っているとは思えない。ただし、今季から導入されたJ1の2ステージ制とプレーオフ制は、あくまでも「一般へのメディア露出」を第一に考えてのものであり、アメリカやメキシコのような「マネーマシン」となることは(少なくとも現時点では)なさそうである。

日本サッカーの世界でのプレゼンスを高めるためにJリーグが考えているのは、国内リーグのブランド力向上を狙った情報発信であり、そしてJFAと連携しての育成システムの抜本的見直しであろう。方向性はよく理解できるのだが、そこで問題となるのが「その原資をどこから調達するか」である。残念ながら、その具体的な見通しが立っているようには感じられない。

では今のJリーグは、まったく手詰まりなのかというと、案外そうとも言い切れないように思う。プレゼンの中で中西氏は、これまでのアジア戦略室をこの4月から『国際部』に改組したことを明らかにしていた。この国際部がベンチマークするのは、おそらくは世界のサッカーのトレンドのみならず、ビジネス的な観点も担っているのではないか。であるならば、Jリーグがこれまで固く門戸を閉ざしてきた外資の導入も、近いうちに解禁されることになるのかもしれない。(取材:2015年4月9日@東京)


(C)Tete_Utsunomiya

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