【きちルポ】長谷部誠のドイツでのキャリアを振り返る②「二兎追わなければ感じられなかったことがあった」
▼ 懐疑心もあった長谷部獲得の裏側
今年1月18日に40歳となった長谷部誠は今季限りでのプロ選手としての引退を表明した。
その別れを惜しむ声が世界中から続出しているが、そもそもフランクフルトに長谷部誠が移籍してきたとき、当時会長だったヘリベルト・ブルフハーゲンは100%の確信を持っていなかったことを後日明かしている。
「いい選手なのは間違いない。だがすでに少し年を取りすぎていないだろうか?」
フランクフルトへ移籍した2014年、長谷部は30歳だった。一般的なプロサッカー選手のキャリアを考えると、ここから下り坂に入ることが少なくはない。まして長谷部はニュルンベルクでひざを手術し、2度の手術でシーズンのほぼ半分を棒に振った後だ。
どこまでコンディションが持つのか、どこまでのパフォーマンスを発揮できるのか。
懐疑的な見方をされても不思議ではない。似たような不安を感じたファンだって一定数以上いたことだろう。
そんな周囲の予想を完全に裏切ってしまうのだから、サッカーはわからない。40歳まで現役を続けられたという事実を知る今にして思えば、30歳は年を取りすぎているどころか、まだまだ成長期に入ったばかりのころとさえも言えるのだから。
移籍初年度から34試合中33試合に出場し、チームは9位でフィニッシュ。チーム戦力を考えると上々だったが、翌15-16シーズンはいろいろとうまくいかないことが多く、16位でシーズンを終えることに。2部3位だったニュルンベルクでの入れ替え戦の末に何とか1部残留を果たした。
古巣ニュルンベルクと1部をかけて戦うという複雑な心境を乗り越えて、クラブの残留に貢献した長谷部は、その次のシーズンに当時監督だったニコ・コバチから新しいポジションを託される。
それが3バックの真ん中《リベロ》だった。
▼ リベロ長谷部の誕生
長谷部「監督が僕にこの役割を見つけてくれてうれしい。中盤よりも相手から受けるプレッシャーは少ないし、落ち着いて時間を持ってプレーができる。僕の経験をうまくチームに還元することができる。攻撃は僕のところから始まるんで、効果的なポジションを一つ飛ばすパスとか、自分がドリブルで運んで相手のCFを置き去りにするというやり方もある。
自分のところからの縦パスもそうだし、相手のDFラインと中盤の間に落とすようなボールとか、そういうリスクは多少あるかもしれないけど、そういうのができるとチームがいい方向に行くんじゃないかなと思います」
長谷部はリベロという新境地に好意的なコメントを残している。
リベロに長谷部が入ったことでフランクフルトは攻守に抜群のバランスを手にすることができた。攻撃面だけではなく、守備でも狙いすましたインターセプトとカバーリングで相手の攻撃を次々に跳ね返していく。
クリアするだけではなく、そのままダイレクトで味方へパスをつなげたり、ドリブルで持ち運べるので、相手が守備を整理し直す前に攻撃のスタートができる。突破力とスピードに秀でた攻撃陣をそろえるフランクフルトとリベロ長谷部のかみあわせはどんぴしゃりだった。
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