【EL】フランクフルトに訪れた永遠の夜。ウェストハムを下して悲願のEL決勝進出!
▼ 厳戒態勢の準決勝
フランクフルトの駅に着いた時から、普段とは違う雰囲気がそこにあった。
準々決勝では世界トップクラブの一つバルセロナを迎えての対戦だったが、その時よりも駅を出たときに肌を通して感じる空気のざわつきが違う。
そもそもまず電車を降りて出口から外に出ることができなかったのだ。
普段はすんなりと通れる通路に警官隊がずらっと立ち並んでいて通れない。「ホームの反対側にある階段を使って別の出口から出るように」と言われる。フランクフルトサポーターが無理やり通ろうとしていたが、相手はびくともしない。しょうがない。ぐるっと回ってようやく外へ出ることができた。
フランクフルト中央駅を出るとすぐ前にトラム駅があり、いつもはそこからスタジアムへ向かうのだが、停留所の電光掲示板には難に表示もされていない。あれ?と思って周りをきょろきょろすると、右奥から急に大声の集合体が聞こえてきた。
アイリッシュパブがパブリックビューイングを設置したことで、ウェストハムサポーターが大挙し、お祭り騒ぎが始まっていたのだ。警官隊が周りを囲み、一般客は近寄れないようになっているのだが、そのためにトラムが通行止めになってしまっている。しょうがない。
警官隊の数がいつもの倍以上はいる印象がある。イングランドから駆け付けたファンとフランクフルトファンが前日に小競り合いを起こして、30人以上が逮捕されたというニュースもあった。ピリピリした雰囲気を感じざるをえない。
一度駅に戻り、市電でスタジアム駅へ向かうルートを選択。ただこちらだとメディアパスを受け取るゲートまでがかなり遠く、それこそスタジアム周りをぐるっと回らなければならない。ファンの様子を見て歩いていると、チケットを求めるファンも相当数いるようだ。
当初の予定では2時間前にはスタジアム内のメディアルームについていたはずが、パスを受け取れたときは1時間前。メディアルームでケイタリングを食そうと思っていたのに、そこにあったのはザウアークラウトのみ。
先についていた同業者に話を聞いたら、「さっきまでハンバーグがあったんですけどね」という。外の売店で焼ソーセージでも買おうともしたけど、行列がかなり長い。結局、酢漬けのキャベツをおなかに入れて、コーヒーを片手に記者席に向かうことにした。
記者席に就いた僕はじっと選手のアップを眺めながら、ファンの歌声に身をゆだねた。大好きな空気だ。どんな試合でもフランクフルトファンは熱い。筋金入りの熱さだ。でも今日の熱さはまた一味違う。世紀の一戦を前に気合いが入っているなんてものではない。
試合開始まで15分前になったところでスタジアムのモニターに映像が流れ始めた。何度も2部降格を体験してきたクラブだ。ちょっとうまくいったと思ったら、翌シーズンには歯車が狂って苦しむことが多かったクラブだ。長谷部誠が移籍してきた最初のシーズンには2部3位との入れ替え戦で辛くも残留を果たしている。
そんなフランクフルトがニコ・コバチ監督とともにドイツカップでバイエルンを破って優勝し、アディ・ヒュッター監督とともにヨーロッパリーグで準決勝まで進出し、そしていまあと一歩で決勝進出というところまで来たのだ。
モニターに現れた「すべては決勝のために」という文字を見ると、ファンからひときわ大きな声援が巻き起こった。
スタメン発表が始まると、ゴール裏を巨大なコレオが覆った。
《アイントラハトフランクフルト。俺たちの町、俺たちのクラブ》
選手が入場してくると、無数の光が包み込んだ。そして轟音を超えた声の束がスタジアムに結集していく。セキュリティの観点から見たら、完全にNGだ。何かあったらどうするとも思う。それでも、僕はこの光景に心を奪われていた。これが、フランクフルトだ。
(残り 2607文字/全文: 4156文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ