中野吉之伴フッスバルラボ

【取材記】暴風のなか3日間の取材へ。メディアのあり方も変わってきているけど、大事にすべきベースはいつだって一緒のはずなんだ。

▼ 暴風が接近していた週末の取材

先日、シャルケとパーダーボルンの取材を終えてホテルへ向かう道中の話。

この時期、ドイツには暴風が連日襲い掛かってきており、この日はシャルケのホームスタジアムであるヴェルテンスアレーナにも直撃。試合後はかなりの暴風で「おさまるまでは危険なのでスタジアムで待機していて下さい」というスタジアムアナウンスが何度もかかっていた。

多少おさまってきたので移動しようと思い、ドイツ鉄道のアプリでルートを検索。翌日ビーレフェルト、翌々日はデュッセルドルフへ取材に行く予定だったので、移動しやすい場所ということでドルトムントにホテルを取っていた。

普段だとゲルゼンキルヒェンの中央駅までトラムで戻り、そこから電車で30分ほどなのだが、暴風の影響で電車が軒並み止まっている。

全電車が運航停止となった時間帯の電光掲示板

あれ、どうしよう?

直接ドルトムントへのルートで探すと出てこないので、回り道になるルートで探し直してみたら出てきた。トラムで一つ先の駅まで向かうと、そこからの電車は動いていると。

はじめていく小さな町の小さな駅。何とかたどり着いて駅舎に入った僕が耳にしたのは、「暴風の影響で電車は全線停止中です」とのアナウンス。

「話が違う、だってアプリにはこのルートが出ていたんだぞ」と思って改めてみてみたら、消えている。なんだホラー話か。誰かの陰謀か。

この駅から別のルートで変えれないかなと思っても出てこない。近くの駅からだとどうだろうと思ったら、ちょっと離れたボーフムからだと相当遅延しているICE(特急電車)がまだ動いていてそれがくるという情報をキャッチ。

駅前に走ったら、ちょうどタクシーがあったので、それに飛び乗ってボーフム中央駅に向かってもらう。

タクシーの運転手さんはトルコ系の方。こちらのタクシー運転手さんは結構気楽に話しかけてくるし、こちらもそんな会話を楽しんだりする。この日もそうだった。

運転手 この風は大変だよね。電車全部ストップでしょ。
中野  そうなんだよ、まいったね。でも自然相手じゃしょうがない。
運転手 ボーフム駅までっていうけど、そこからの電車は動いているの?
中野  アプリで調べてたら最後1本希望の電車があるみたいでさ(苦笑)
運転手 そうか、それに乗れたらいいよね。

そんな感じで会話していたら、運転手がおもむろにこんなことを言い出した。

運転手 不謹慎かもしれないけどさ、今回は俺たちにとってはラッキーだったんだよ。おかげでお客さんがたくさん利用してくれている。コロナ禍で俺たちの仕事はもう全然だめになっていたんだ。ナイトライフは許可されていないし、でもクラブとかディスコに行った人たちがタクシーで家に帰るっていうのがあるから、俺たちの稼ぎは安定していたし、それで生活することができていたんだ。コロナでいろんなつながりが途絶えてしまった影響っていうのは、俺たちが思っている以上に深刻なんだよ。

本当にその通りだなって思ったんだ。そして世の中はいろんなことがつながりあって、交わり合って成り立っているんだというのを改めて感じたし、僕にとって大変という事態が、他の人にとっては大事な活動の場ということもあるわけなんだ。

それなら今回電車が止まってタクシー移動することで、彼らの稼ぎに少しでも貢献することができたのはポジティブなことでもあるんだなと思うことができた。

ボーフムまでの10分ほどのドライブ。名前も知らない運転手さん。日本のアニメが好きで、いつか一度東京に行ってみたいんだって笑っていた。僕はトルコにまだ行ったことがなかったから、イスタンブールの町を歩いてみたいんだといってほほ笑んだ。

世界はつながっているね。

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