中野吉之伴フッスバルラボ

【取材記】各地を取材で巡るといろんなことに遭遇する。フランクフルトファンの災難からボーフムファンの素敵さ

取材に出るといろんなことにでくわすものだ。

日本の常識は世界の非常識といわれるけど、それならドイツの常識だって世界の非常識だったりする(苦笑)。それはどの国の、どの地域に行ってもたぶん同じことなのだろう。

だから旅は面白い。

毎週どこかのスタジアムで取材にいそしんでいた通信員時代と比べたら取材に出る頻度はぐっと減った。でもやっぱり電車やバスを乗り継いで、スタジアムへ向かい、その地で泊まり、いろんな風景を見ることがたまらなく好き。そして良くも悪くも期待を裏切らないハプニングがあったりする。

そんな取材雑記をいろいろお届けしたい。

▼  盗難騒動でもユーモアは必要? 

これはフランクフルトからフライブルクへ戻る電車内での話。

時間帯がよかったのか、思った以上にすいた車内でパソコンを開いて快適に仕事をしていた。ドイツの高速特急ICEやICでは無料Wlanが使用できる。以前はすぐ切れたり、壊れたりが頻繁にあったけど、最近はすごくいい感じだ。

この日はフライブルクでフランクフルト戦があるので、そこいらにフランクフルトサポーターが乗車している。朝だけどすでにお酒を召し上がっている人らもたくさんいる。「食堂車はどっちなんだー!」とぶつぶつ言いながら、車内を右往左往しているファンもいる。

明らかに逆に向かって去っていったが、案の定「行き止まりじゃないか!」と憤りながら戻ってきた。楽しそうで何より。

1本原稿を仕上げたころ、フライブルク到着を告げるアナウンスが流れてきた。さてそろそろ降りる支度を、と思ったら隣から素っ頓狂な声が聞こえてきた。

「あれ?俺のリュックサックはどこ?」

若い20歳くらいの男の子がそれまで座っていた席の上にある網棚(網ではないけど)をガサゴソ探している。どうやらリュックサックがないらしい。ジャンプしてみる。でもない。向かい側も探す。でもない。車両全体を探す。でもない。

頭を抱えながら思い出そうとする。そもそもリュックサックを持っていたかどうか?フランクフルトまであったのは覚えているようだ。でもそこからは確かじゃない。手がかりが少なすぎる模様。

恋人がスマホでいろいろ検索している。情報を見つけたようだ。

「ホームページを調べたら『車内で紛失したようなら警察に届け出を』って書いてあるわよ」

若い男性は「ちくしょう…」とつぶやいた。ちょっと沈黙。

ふいに顔をあげて恋人に一言。

 

「警察にはあとで会うからその時でいいかな?」

 

違う、そういうことじゃない。
スタジアムに行ったらアウェー席を警護する警察官はいるけどさ!

近くにいた別のフランクフルトファンは思わず噴き出していた。大変な時でも面白いこと考えられるっていうのは素敵?!なのかな。

さて、彼のリュックは無事出てきたのだろうか。

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