ドイツグラスルーツサッカーの理想と現実。良いことばかりではないけれど
こんにちは!「子どもと育つ」管理・編集のゆきのです。
2019年8月から書かせて頂いているこのコラムも、あっという間に半年以上が過ぎました。いつもお読みくださっている皆様、本当にありがとうございます。
私は2004年の秋からドイツで暮らしています。ドイツに来た理由は、突き詰めれば「水が合うから」の一言だったのですが、とはいえ何年暮らしても嫌なこと、いつまでたっても違和感がぬぐえないこともたくさんあります。
例えばヨーロッパの喫煙率の高さ、そしてタバコポイ捨ての多さには本当にびっくりします。しかも子どもがそばにいても構わずにタバコを吸っている人が男女問わずかなりいます。公共施設での分煙はあまり進んでおらず、歩きタバコもほとんど規制されていません。ベビーカーを押しながら、子どもと手をつないで歩きながら、子どもの試合を見ながらタバコをくわえている人たち。吸うのは個人の自由だけれど、せめて子どものいないところで!そして吸い殻は灰皿に捨ててーー!!
かっちゃんさんによる写真ACからの写真 公園や学校やグラウンドの周囲がこんなだと本当に悲しくなります…
サッカーにおいても同様です。老若男女がスポーツをする環境という点において、ドイツのそれが充実していることは疑う余地がありませんが、改善すべき点もたくさんあります。我が家の子どもたちにしても、これまでサッカーを続けてくる中で、目や耳を疑うようなこと、ときにはひどく傷つくようなことにもたびたび遭遇しています。
例えば、中野吉之伴がたびたび苦言を呈しているような、子どもを怒鳴りつける監督、上手い子どもしか試合に出さない監督、子どもの一挙手一投足に細かく口を出して子どもを委縮させてしまう「熱心」な親はドイツにもいます。別の競技ではありますが、友人のところでは、かつて国内トップクラスプレイヤーだった年配の指導者が、昔ながらの厳しい指導を敢行した結果、子どもが故障に苦しんで競技から離れたというケースもありました。
怒声や威圧的なふるまい、過剰な干渉、旧態依然としたトレーニングが良い結果を生まないということは周知されているのだと思いたいですが、それでも残念ながらこうした指導者はゼロにはなりません。我が子可愛さのあまりか、サッカーへの情熱のあまりか、相手チームや審判に聞くに堪えない罵声を浴びせる親もゼロにはなりません。
写真はとあるグラウンドの注意書きです。
1.彼らは子どもです
2.これは試合です
3.監督は趣味でやっています
4.審判も人間です
5.これはワールドカップではありません
真面目な注意喚起なのか冗談なのか。息子のチームのグループチャットで回ってきたものです。どこかのグラウンドに実在する注意書きなのか、ネタとして作られたものなのか、笑うに笑えないこともあるのが現実です。あからさまな侮辱や暴言は、当然審判によって罰則の対象になります。本来なら『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』こともできるはずなのに、親のほうが審判から退場を命じられている姿は見せたくないものです……。
さらに、多くの人々が異なるバックグラウンドを持つ多民族国家・ドイツでは、子どもへの接し方、サッカーとの関わり方一つとってみても、同じ価値観、同じ目標を共有するのは困難です。そもそも価値観を共有するという発想自体がない人だっています。違いはあってもお互いをリスペクトし合い、着地点を見出すことができれば素晴らしいのですが、それが全く簡単ではないのはご想像いただけるでしょう。
簡単なことではない。だからといって「仕方ない」と諦めるわけにはいかない。ドイツのグラスルーツサッカーの現場では、多くの指導者が熱意と信念を持って、あるいは淡々と当たり前のこととして、現実を理想に近づけようとしています。
嘆かわしい現実が存在する一方で、信じられないほど輝かしい瞬間も、心の底から奮い立たせられるような瞬間も、幻ではなく、確かにここに存在しています。決していいことばかりではないし、げんなりすることもたくさんあるけれど、それでも、子どもたちが日々確かに、逞しく成長している姿を見ていると、その力を信じて、彼らと一緒にずっとここにいたい。そう信じさせてくれる何かがここにはあるのかもしれない。そんな風に感じています。
今週もお読みくださりありがとうございました。次回もよろしくお願いします!