【ノンフィクション】アキレス腱断裂から復帰して得たもの 川本梅花アーカイブ #榎本達也
榎本達也 アキレス腱断裂から復帰して得たもの
この物語は、榎本達也が徳島ヴォルティスに加入していた時に聞いた話を元にしている。ケガからの復活をテーマに、1人の人間の葛藤と成長を描くことになった。
えのもと・たつや/1979年3月16日生まれ。東京都出身。FC東京普及部スタッフ。現役時代は浦和学院高→横浜マリノス(現横浜F・マリノス)→ヴィッセル神戸→徳島ヴォルティス→栃木SC→FC東京。2016シーズン限りで引退。
目次
■新天地に移籍。活躍が期待される矢先の負傷
■絶対にこれで終わりたくない
■マリノス時代・サブメンバーの屈辱
■人ばかり気にして、自分を見失っていた
■ターニングポイント、人間を大きくしなければ
■神戸との別れ、心の師との別れ
■人として歩くためのリハビリ
■ケガをして得た、忍耐力と人を見る力
■新天地に移籍。活躍が期待される矢先の負傷
2011年2月、J2リーグの開幕戦を控えた2週間前、徳島ヴォルティスは非公開でヴィッセル神戸とプレシーズンマッチ(PSM)を行っていた。徳島GK榎本達也にとっては、昨季まで所属していた古巣との対戦だった。
榎本は、試合前日のチーム練習を終えてから、いつものようにクールダウンをして体を入念にケアする。ベテランと呼ばれる年齢(当時32歳)に入った彼は、「体のケアは人一倍気を付けてやっています」と胸を張る。そう言い切れるほど、彼は注意深く体をいたわっていた。移籍してきた最初のシーズン、その開幕戦に向けて「気持ち」と「体」をしっかりと作ってきた。準備は怠っていない。
対戦相手の神戸は契約満了という事実上の解雇通告をされた相手。だからといって、特別に入れ込んで気負っていたわけではなく、経験を積んだベテラン選手にふさわしく、冷静に試合に入っていった。
試合が始まって20分、榎本に思いがけない出来事が襲いかかる。味方DFが胸でボールをGKの榎本に返す。戻されたボールをキャッチするために前に出ようとした、その時だった。
「バチッ」と鈍く重い音が響く。
榎本は苦痛で顔をゆがめ、しゃがみ込む。すぐに「アキレス腱をやったな」と察知した。試合はいったん止められ、ピッチの外へ担架で運ばれる。
「何やってんだ、俺は」
心の中で連呼する。
「これからという時に、ほんと、何やってるんだよ」
そう大声で叫びたくなる。
担架の上に広がる青い空が目に入ってくる。さっきまでは爽快に見えた青は、彼にとって、いまや絶望を象徴する色に映った。