現役サッカー審判員が実名での発信を思い立った理由 家本政明(元プロフェッショナルレフェリー)<1/3>
元プロフェショナルレフェリーの家本政明さんが、現役を引退したのが2021年。早いもので、それから3年が経った。今年で51歳となる家本さんの現在の肩書は、株式会社フィル・カンパニーの経営改革特命部長。バリバリのビジネスパーソンとして活躍されている。
引退後も家本さんは、時おり試合で笛を吹くことがある。最近では、4月20日に金沢で開催された「令和6年能登半島地震復興応援チャリティーマッチ」。この試合でレフェリーを務めた家本さんと、前日のパーティでご挨拶させていただいたことがきっかけとなり、今回のインタビューが実現することとなった。
現役時代のジャッジについては、今でもさまざまな評価があることだろう。それでも家本政明というレフェリーが、それまで審判の世界で「常識」とされてきたことを、次々と打ち破ってきた事実について異論を挟む人はいるまい。noteをはじめとする個人での情報発信、メディア出演による審判への理解促進、そして引退後のビジネス界の転身。いずれも、これまでのレフェリー像と照らすならば、かなりの「異端」ぶりである。
家本さんへのインタビュー記事は、引退直後の2021年に集中しており、最近はめっきり見かけなくなった。3年が経過した今だからこそ、さらに深堀りした話が聞けるのではないか。そんな思いからオファーさせていただいたところ、ご本人から即レスでOKをいただいた。私にとっても、久々に手応えが感じられる今回のインタビュー記事。Xで感想をポストしていただければ、家本さんにも読んでいただけると思うので、ぜひ!(取材日:2024年5月17日@東京)
■初めての発信は「小鳥さん救出の舞台裏(番外編)」
──先日の金沢でのチャリティマッチ、お疲れ様でした。その前に主審を担当されたのが、中村俊輔さんの引退記念試合だったとか。現役引退後も、レフェリーのオファーがいろいろ来ているそうですが、すべてを引き受けるわけにもいかないと思います。引き受けるかどうかの基準は、どのあたりに設けているのでしょうか?
家本 特には設けていないんですが、強いていうならオファーする方の「想い」の強さや美しさでしょうか。先日のチャリティマッチもそうだし、少年団の卒団試合なんかでも「子供たちに本物のレフェリングを体感させたい」という依頼をいただいた時にはお引き受けしました。おっしゃるとおり、何でもかんでも引き受けるわけではないのですが、そうした「想い」が伝わってきて、なおかつ僕のスケジュールが空いていたら、できるだけお引き受けしようと思っています。
──そういう問い合わせって、個人的なつながり以外だとSNS経由だったりするんですか?
家本 そうですね。特にXでDMをもらうケースが多いです。ネガティブなメッセージをもらうこともあるんですが、基本的にはSNSはオープンにしています。
──まさに今回のインタビューのテーマになるんですが、家本さんは現役時代から積極的な発信を続けていました。その嚆矢となったのが、noteでの2本目の投稿「小鳥さん救出の舞台裏(番外編)」だったと思うんです。これが2020年の10月。ご自身の引退を意識されていたタイミングで、現役レフェリーによる情報公開を考えた理由は何だったのでしょうか?
家本 情報をどんどんオープンにすることについては、村井(満)さんがチェアマンだった時代のJリーグに個人的には強く共感していました。いわゆる「天日干し経営」ですね。それに対して当時のJFAはどうだったかというと、これは批判と捉えてほしくないんですけれど、同じ情報公開でもリスクヘッジに重きが置かれていたように感じています。もちろんこれは、組織風土の違いによるものだと思うんですが。
とはいえ個人的には、レフェリーのことをもっと多くの方に知ってもらいたいし、正しく理解してもらいたい。もちろん、こちらが発信することでのリアクションが、すべてポジティブであるとは思っていません。ただ、そうしたリスクがあったとしても、現役のレフェリーが直接発信したほうが絶対いい。そういったことをJFAや審判部に訴え続けた結果、まずはnoteでの発信からスタートしたというのが実際のところです。
──おそらくJFAも渋々という感じだったと思いますが(笑)、実際に発信してみてどういうリアクションがあったのでしょうか?
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