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【無料公開】メンバーの固定化は指揮官だけの問題か? なでしこJAPANの敗北と再生をめぐる対談<2/2>

上野直彦氏提供

女子バレーはなでしこの先を行っている?

──そろそろまとめに入りましょう。なでしこがリオにたどり着けなかったのは本当に残念ですが、4年後には東京五輪がありますし、その前年にはフランスでワールドカップもあります。今回の予選敗退は、なでしこや日本の女子サッカーが変わるチャンスであると捉えることもできるかと思いますが、何か具体的な提言はありますでしょうか?

石井 なでしこJAPANということで考えれば、世界一になるということはすでに達成してしまったので、協会はそれ以上のビジョンで示して、そこに向かって進んでいく体制を作っていかないといけないと思います。それと常々思うんですけど、その競技の強さって、結局のところ競技人口に支えられているんですよね。「女子サッカーを文化に」っていう言葉が流行りましたけど、それだって競技人口を伸ばしていかないと僕は達成できないと思っています。ですからこれまで以上に、どうすれば女性が男性と同じようにサッカーを楽しめる環境を作っていくのか、そこの部分に注力してほしいと思いますね。

──女子のプレーヤーは以前に比べれば確かに増えたんですけど、バレーボールに比べたら、まだまだですよね。

石井 日本の女子団体スポーツで最も成功しているのって、バレーボールだと僕は考えています。一時期、落ち込みましたけど、最近また国際大会で盛り返しているのは競技人口が圧倒的に多いからですよ。体育の授業を含めればバレーボールをやったことがない女性なんて、ほとんどいないですよね。だからこそ、その中から優れたプレーヤーが輩出されて強いナショナルチームになっていく。女子サッカーの場合、アカデミーだったりGKプロジェクトだったり、いろんな施策を打ってきましたけど、競技人口というところではまだまだ道半ばだと思います。

──なるほど。上野さんはいかがですか。

上野 ロンドン五輪が終わって、僕が新たにチャレンジしたことのひとつに「サッカー以外の他競技も積極的に観ること」を挙げましたけど、真っ先に考えたのが女子バレーだったんですよね。実はロンドンでも女子バレーを2試合見たんですが、その総合力にすごく圧倒されました。スタッフワーク、スカウティング能力、選手へのフィードバックのスピードと質。いずれも選手とスタッフの一体感がすごかったんです。その後、女子バレーの内情をいろいろ取材するうちに、明らかになでしこの先を行っていることがわかったんですよね。

──それは知らなかったです。日本のあらゆるスポーツ団体で、男女ともサッカーが先を行っていると思っていたのは、実はサッカーしか取材していない人間の奢りなのかもしれないですね。

上野 まさにおっしゃるとおり。ですから、石井さんがおっしゃるように競技人口を増やしていくことも大事なんですけど、他競技との連携をしながら、お互いに情報を共有したりフィードバックしたりすることも考えてほしいなと思っています。

──いろんな意味で、日本の女子サッカーはまだまだ道半ばだと思いますけど、まずは「佐々木則夫監督、お疲れ様!」ですよね。

石井 佐々木監督には、女子サッカーをここまで導いていただいて、本当にありがとうございましたと申し上げたいですね。いろいろ大変だったし、孤独な苦しみもあったでしょうけど、いったんリフレッシュしてから新たなサッカーとの関わり方をしていただければと思っています。

上野 僕もノリさんには本当に感謝しかありません。ただしメディア側の人間として言うと、残念ながら佐々木則夫という人物の質とか魅力を完全には引き出しきれていなかったと思っています。本当はもっとたくさんの引き出しがあったのに、それを引き出しきれなかったのはメディアの責任ですよね。そのことが心残りです。

──せっかくですので最後に、それぞれの女子サッカーに関する著書をご紹介いただけますでしょうか。

石井 『サポーター席からスポンサー席から: 女子サッカー 僕の反省と情熱』という電子書籍を書かせていただきました。なでしこJAPANが上昇気運に乗る北京五輪よりも前の時期に、私はリーグスポンサーの担当者として女子サッカーを応援していました。また、2つの女子ワールドカップではサポーターとして現地に応援しに行きました。スポンサーとサポーターの2つの異なる立場から見た女子サッカーの本になっています。

上野 僕は『ベレーザの35年 日本女子サッカーの歩みとともに』という記念誌が5月下旬発売予定です。共同執筆をさせていただきましたが、読売クラブを立ち上げられた牛木素吉郎先生が約1年前に立ち上げられた企画で、今まで一番苦労した本ですね。高倉麻子さん、手塚貴子さん、野田朱美さん、澤穂希さんなどにインタビューをしました。世界的にみても史上最強の育成組織であるベレーザ、メニーナの秘密が、この一冊にはつまっています。なでしこ再生のヒントになると思います。

──どちらも面白そうですね。今回の対談をきっかけに女子サッカーに興味を持った方は、ぜひ探してみてください。石井さん、上野さん、今日はありがとうございました。

<この稿、了>

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