『フットボール風土記』より会員限定で先行公開 親会社の都合に翻弄されて 三菱水島FC<2/2>
<2/2>目次
*理不尽な天皇杯予選辞退と全社での快進撃
*三菱水島は昇格を諦めて大会に臨んだのか?
*「優秀社員賞よりもサッカーの環境改善を!」
■無念の天皇杯予選辞退、そして全社での快進撃
天皇杯出場が懸かる県選手権決勝は、NHKでも中継される県内サッカー界のビッグイベントである。しかし親会社の不祥事により、2カ月半にわたって生産ラインが止まり、関連会社にも多大な迷惑をかけてしまった。ここで三菱ブランドを付けたサッカー部が、目立つわけにはいかない──。
この決定に対する、地元民の反応はどうだったのだろう。県リーグに落ちた10年より、三菱水島のユニフォームをサプライヤーしてきたOKAフットボールの三宅理志は「辞退は納得できなかった」と言い切る。
「あれはショックでしたね。辞退そのものもそうですが、決勝でウチのブランドをアピールできなかったのは痛手でした。不祥事についてですか? 三菱はその前にも問題を起こしているので(00年と04年のリコール隠し)、地元民としては『またか』という思いはあります。でも、三菱ブランドの傷つけたのは(水島製作所ではなく)東京にいる上の人たちでしょ? 何で三菱水島が、その責任をとらなければならないんでしょうかね?」
アマチュアクラブにとっての天皇杯は、プロクラブ以上に重い意味を持つ。より高いレベルの相手と真剣勝負ができ、しかも全国的な注目を集めることができるからだ。三菱水島の選手たちの無念は、いかばかりであったか。
そんな彼らにとって救いだったのは、全社予選には辞退せずに済んだことだ。県選手権とは異なり、全社予選は中国エリアの代表を決める大会であるため、辞退すれば他の県協会にも迷惑がかかる。また、天皇杯予選と比べれば目立たない大会でもあった。
この全社予選を無事に突破した三菱水島は、10月21日から愛媛で開催された全社の本大会に出場。ここから彼らは、周囲を驚かす快進撃を見せる。高知ユナイテッドSCに4対3、アイデンティみらいに2対1、松江シティFCに1対0、ジョイフル本田つくばFCに2対0、そして決勝では鈴鹿アンリミテッドFCに2対2からPK戦(5対3)で勝ち切り、見事に初優勝を果たした。
全社での三菱水島は、その戦術も非常に際立っていた。システムはオーソドックスな4−4−2。まず守備から入り、ボールを奪ったら前線の高瀬翔太にロングパスを送り、セカンドトップの宮澤龍二がフォローする。実際、全社5試合の11得点のうち、半数以上の6得点を高瀬が決めている。とはいえ、前出の山下によれば「ウチはカウンターだけではない」そうだ。
「実はリーグ戦では、パスをつなぐサッカーが中心でした。(地域CL)決勝ラウンドでの鈴鹿戦でも、後半からポゼッションに切り替えていましたし。ただ、全社の相手に自分たちのパスサッカーは通用しないだろうと。確実に勝ち上がるためには、まずはしっかり守って、奪ったらツートップに任せるというのを徹底させました。それが見事にハマりましたね」
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