コンサル目線で考える「成長するクラブの条件」 Jリーグマネジメントカップ2018<1/2>
2019年のJリーグもJ1昇格プレーオフを残すのみとなり、すでに来季に向けたさまざまな人事往来のニュースが飛び交う今日このごろ。当WMでも、シーズンを振り返る企画をお届けすることにしたい。ただし、取り上げるのは今季ではなく、2018年シーズン。デロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、デロイト トーマツ)スポーツビジネスグループが、毎年発表している『Jリーグマネジメントカップ2018』がサブテキストである。
デロイト トーマツとJリーグマネジメントカップについて、ご存じない方は以下の動画をご覧いただきたい(すでにご存じの方は本編からご覧いただくことをお勧めする)。
このJリーグマネジメントカップは、全Jクラブ(18年は54クラブ)を「マーケティング」「経営効率」「経営戦略」「財務状況」という4つの視点で、各クラブのビジネスマネジメントを評価するというもの。たとえばマーケティングでいえば「新規観戦者割合」や「客単価」、経営効率でいえば「勝ち点1あたりのチーム人件費」、経営戦略でいえば「SNSフォロワー数」や「グッズ関連利益額」、財務状況でいえば「売上高成功率」や「自己資本比率」といったところが個人的に興味をひかれる。
われわれがいつも目にする順位表は、勝ち点や得失点差による序列である。また、平均入場者数やチーム人件費といったものも、わりとイメージがしやすいだろう。ところが「勝ち点1あたりのチーム人件費」とか「SNSフォロワー数」といったものになると、まったく予想もつかない序列が見えてくる。自分のサポートクラブについて、今まで気づかなかったポテンシャルや課題などを知ることもできよう。ところが残念なことに、Jリーグマネジメントカップの存在は、ファンの間では決して広く知られていないのが実情だ。
そこで今回は、デロイト トーマツの里崎慎さんをお迎えして、このJリーグマネジメントカップから見えてくる「成長するクラブの条件」というテーマについて、お話いただいた。資金力があるクラブが、必ずしも優勝できるわけではない。強いクラブとそうでないクラブとの間には、コンサル目線でどのような違いが見えてくるのだろうか。本稿は、どのクラブのサポーターでも興味が持てる内容となっている。最後までご覧いただければ幸いである。(取材日:2019年10月29日@東京)
<目次>
*売上高でトップの神戸、収入のバランスでは川崎
*ビジネスは町工場と同じなのに知名度は全国規模
*新規観戦者割合では長崎、客単価では鹿島が1位
*セレッソに東南アジアのフォロワーが多い理由
*川崎と鹿島の成長を促した経営者の「危機感」
*ベンチャー企業によるJクラブ買収は今後も続く?
編集部よりお願い
本稿をご覧になっての感想やご意見がありましたら、Twitterにて書き込んでいただければ幸いです(ハッシュタグは #宇都宮徹壱WM)。取材にご協力いただいたデロイト トーマツさんとも共有すると共に、同様の企画を実施する際の参考にさせていただきます。
■売上高でトップの神戸、収入のバランスでは川崎
──今回は、このほど公開されましたマネジメントカップ2018をもとに、昨年のJリーグのトレンドについて里崎さんに語っていただきたいと思います。さっそくですが18年シーズンは、どのあたりに特徴があったと言えるのでしょうか?
里崎 ちょうどこの年、アンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸に加入したんですよね。ですので、いわゆる「イニエスタ効果」というものが随所に影響を与えたシーズンだったと言えると思います。
──イニエスタが来ることによって、神戸のホームゲームのみならず、アウェーでもお客さんが入ったということですね?
里崎 そうです。そのデータは相当如実に出ていて、むしろアウェーのほうが高い集客率をはじき出しているんですよ。こちらがイニエスタ加入後の、アウェーでの平均集客率。これが87.8%です。J1リーグの平均が62.7%ですので、神戸との試合になると、特に満員感が醸成されていたことが数字からも明らかになっています。
──ガンバ大阪がJ2に降格した2013年に「ガンバノミクス現象」というものがあったじゃないですか。つまりJ2の試合で、当時日本代表だった遠藤保仁や今野泰幸が見られるということで、ガンバのアウェー戦がたくさん入ったという。でも去年の「イニエスタ効果」の場合、目の肥えたJ1のファンが、ひとりの選手を見るためにスタンドに詰めかけたというのが特筆すべき出来事でしたね。
里崎 そうですね。ただし、これについては「イニエスタ目当てでスタジアムに来たお客さんが、他の試合でも来てくれていたか」という部分がポイントだと思っています。各クラブはイニエスタが来ることを起爆剤として、何かしらのプロモーションを行っていたのか、その成果が次のシーズンにも現れているのか。そこの部分はきちんと検証する必要はあると思います。
──来年に出る2019年版で、ぜひ答え合わせをしたいところですね。イニエスタ以外に、特徴的な現象はありましたでしょうか?
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