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【無料公開】蹴球本序評『ノーサイドに乾杯! ラグビーのチカラを信じて』松瀬学著

 本日(11月2日)に決勝戦を迎えるラグビーワールドカップ。大いに盛り上がった今大会については、いずれ関連書籍が何冊も出版されるだろうが、今大会を振り返るための良書を紹介したい。著者は、ラグビーに関する著作が多い、ノンフィクション作家の松瀬学さん。奥付を見ると、発売は大会開幕日の9月20日となっている。さっそく「序章 ラグビーのワールドカップがやってきた」から引用しよう。

 幸運にも、ラグビーワールドカップは1987年の第1回大会(ニュージーランド・豪州)から2015年の第8回大会(イングランド)まですべて、夏季オリンピック大会では1988年のソウル五輪から2016年リオデジャネイロ大会まですべて、サッカーワールドカップは2002年日韓大会を現場で取材してきた。この3つのうち、ラグビーワールドカップが一番、オモシロいと思っている。その大会がアジアで初めて、ここ日本で開かれる。自分のつぶれた耳(俗称:ギョウザ耳)をぎゅっと引っ張ってみる。夢じゃないよね、これって。

 松瀬さんは長崎出身の元ラガーマンで、早稲田大学卒業後、共同通信社に入社。序章で書かれたとおり、ラグビーワールドカップは第1回大会からすべてを取材している(日本人ジャーナリストでは、松瀬さんの他にひとりしかいないそうだ)。フリーランスとなったのは2002年から。サッカー界でいえば、後藤健生さんか大住良之さんに相当するポジションといえばわかりやすい。今大会を取材中、私もずいぶんとこの人にお世話になった。

 本書は、大会の日本招致活動、日本代表の強化、会場となった釜石や熊本の復興、そして「ノーサイド」や「ワン・フォア・オール」といったラグビー独特の理念についても触れられている。今大会を象徴するキーワードに「にわか」があるが、最近ラグビーの面白さに目覚めたビギナーには特にお勧め。また、大会前に書かれたとは思えない予言めいた記述もあって、今大会の「答え合わせ」にも最適である。

 個人的には、大会招致に関するヒューマンストーリーに読み応えが感じられた(森喜朗元首相への見方も少し変わった)。2002年のワールドカップ招致に関するドラマは、これまで多くの文献があるが、ラグビーの場合は意外と少ない。その意味でも本書の存在は貴重だ。なお、当WMでは来週、著者の松瀬さんへのインタビューを掲載予定である。定価1500円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆★

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