宇都宮徹壱ウェブマガジン

伝説のスポーツカフェの復活と突然の閉店 『ティア・スサナ』親子二代の情熱史<1/2>

 今週は東京・信濃町にあるペルー料理のお店『ティア・スサナ』の店長、江頭満さんにご登場いただく。当WMでもたびたびお世話になっているティア・スサナは、今年いっぱいでお店をたたむことが決まっている。何とも残念な話だが、飲食店はどこも厳しいという話はあちこちで耳にしている。ならば本稿をきっかけに、より多くのお客さんを呼び込む一助となれば、と考えた次第だ。

 ティア・スサナは、単に美味しい料理やお酒を提供するだけでなく、サッカーファン(とりわけオールドファン)にとっても特別なお店である。それは、サッカー講釈師・武藤文雄さんの10年前の記事を読んでいただければ、ある程度イメージできるだろう。店内にところ狭しと飾られた年季の入ったポスターや写真、そしてレア物のビデオコレクションは、そのまま御茶ノ水のサッカーミュージアムで保管してほしいくらい価値あるものばかりだ。

 ティア・スサナはもともと、江頭さんのお母さまの須佐菜(すさな)さんが、1971年に東銀座でオープンさせたお店がオリジンである。ただし、もともとはサッカーとは関係なく、ペルー生まれのお母さまが南米からの留学生に楽しんでもらうことを目的としていたという。それがなぜサッカー関係者が集うお店となり、閉店から22年の時を経て信濃町で復活したのか? その経緯を探るのが、今回のインタビューの主目的だった。

 インタビューを終えて痛感するのは、時代との不運なミスマッチである。東銀座時代(71~85年)は、スポーツカフェという概念そのものが新しすぎた。そして信濃町時代(2007~18年)は、スポーツカフェの衰退期と重なってしまった。ティア・スサナの歴史は、ある意味、親子二代にわたって時代と格闘し続けた歴史である。そして根底にあったのは「留学生のために」、あるいは「サッカーファンのために」楽しい場所を提供したいという情熱であった。本稿を読んで何かしら感じるところがあれば、ぜひとも閉店前にティア・スサナを訪れていただきたい。(取材日:2018年9月14日@東京)

<目次>

*『孤独のグルメ』では反響があったけれど

*留学生のためにペルー料理をふるまう

*三菱重工の関係者が集まるようになって

*「東京のティア・スサナで祝勝会をやるぞ!」

*閉店から22年後、信濃町で復活した理由

*長年の夢を叶えた代わりに失ったもの

『孤独のグルメ』では反響があったけれど

──今日はよろしくお願いします。さっそくですが、今年いっぱいでティア・スサナを閉店しようと決めた理由は何だったのでしょうか?

江頭 ひとつはコックさんが年齢的にも、体力的にもきつくなってきたこと。ここの(不動産屋との)契約も今年で切れることになっていて、僕も70歳になりましたからね。だからそろそろ引き時かなって。それと僕自身、飲食店を経営する能力はなかったのかなと。家賃とコックさんの給料を支払って、毎月の赤字が10年続いていたわけです。自分の年金でカバーしてきたけれど、それも限界がありますからね。

──国立競技場が工事に入って、ずっと試合が行われなかったことも影響していたんじゃないでしょうか?

江頭 その影響はほとんどないです。こっちで代表戦をやっていた頃、試合が終わってお客さんが来たかといえば、本当にパラパラですから。いちおうスポーツカフェとしてやってきたけれど、代表戦のある日でここが満員になることはなかったですね。サッカー好きの人が来ると、確かに昔のポスターやビデオを見て喜んでくれる人はいました。その意味で、ここは「博物館」だったかもしれないけれど、飲食店としてはお話にならなかったね。

──以前、『孤独のグルメ』でお店が取り上げられたときは、けっこう反響があったと聞いていますが(参照)

江頭 あれはSPA!に連載されていたでしょ? ウチが紹介されたのは(10年の)3月だったんだけど、その一月だけで110人のお客が来てくれましたね。4月が30人、5月はGWもあって全国から50人来てくれました。週刊誌なのに息が長かったですね。そのあと、ドラマ化されたでしょ? そこではウチは出てこなかったんだけど、遡ってネットで調べて見つけたっていうお客さんがちらほら来てくれましたね。で、漫画が単行本になって、さらに『孤独のグルメ 巡礼ガイド』の2巻で掲載してもらったら、それでまた80人くらい来てもらった。

──すごい影響力ですね!

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