宇都宮徹壱ウェブマガジン

「地域リーグの語り部」が伝えたかったこと 吉田鋳造(『ちゅうぞうのおしごと!』著者)インタビュー<1/2>

 今週は、このほど『ちゅうぞうのおしごと!』という書籍を上梓した、吉田鋳造さんをゲストにお招きした。鋳造さんといえば、全国各地のアンダーカテゴリーに関する旅の記録や、地域リーグの膨大なデータベースを収録した『吉田鋳造総合研究所』の主催者であり、かつ、FC岐阜のホームゲームで無料配布される『岐大通(ぎだいどおり)』の編集人としても知られる。

 この『鋳造総研』の充実したコンテンツの中から、ごく一部を厳選して書籍化した『ちゅうぞうのおしごと!』。作品については、すでに「献本御礼」にて紹介しているが(参照)、今回は著者ご本人へのインタビューが実現した。ちなみに「写真はNG」ということなので「じゃあ、『これぞ鋳造さん!』というレアものグッズを」とリクエストしたところ、中央防犯FC藤枝ブルックス(現アビスパ福岡)のマスコット入りジャンパーをご持参いただいた(マスコットのデザインは、昨年4月に亡くなった漫画家の望月三起也さんである)。

 アメリカでワールドカップが開催された1994年から、地域決勝(現地域CL)を観戦しているという鋳造さんは、私にとっては「地域リーグの語り部」と呼ぶべき存在である。長年にわたりアンダーカテゴリーの現場を見続けてきただけでなく、FC岐阜の全公式戦記録のアーカイブ化に情熱を注ぎ、そして独自の情報ネットワークを持つ鋳造さん。そんな彼だからこそ、今回のインタビューでは著書の話だけでなく、日本サッカーのピラミッド(とりわけJFL)の未来像についても、ぜひ意見交換をしておきたいと考えていた。

 地域とJFLのファンであれば、本書の中の「『地域CL』になることと、“その先”の可能性」という章に目が止まるはずだ。ご本人は「根拠はないからね」としながらも、地域決勝が地域CLになった理由について、非常に興味深い考察を行っている。実は鋳造さん自身は、このパートがクローズアップされるのは決して本意ではなかったようだが、今回のインタビューではあえてその部分も切り込ませていただいた。人によっては、多少「過激」に感じられる部分もあるかもしれない。が、鋳造さん自身は、非常に冷静かつ客観的な視点で語っていたことを、あらためて強調しておく。(取材日:2016年12月30日@京都)

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■「チームにとって」のラモスと「クラブにとって」のラモス

――今日はよろしくお願いします。新著のお話を伺う前に、まずはFC岐阜のJ2残留、おめでとうございます!

吉田 ありがとうございます!

――最終節まで息が抜けない、まさにぎりぎりでの残留だったわけですが、2016年は岐阜を応援する人たちにとってどんな1年だったのでしょうか?

吉田 僕にとっては、やっとラモス(瑠偉)監督と縁が切れた1年でした。本当によくぞラモス時代を生き延びたなと。開幕戦が0-4、2試合目も0-4で負けたじゃないですか。他クラブのサポーターから「まだ2試合じゃないか」と言われて、岐阜サポは「違うよ、2年と2試合だよ!」と返したという(苦笑)。

――しかし第3節は、その後も残留争いをすることになるギラヴァンツ北九州に1-0で勝利しましたね。

吉田 もし開幕3連敗だったら、あそこでラモスはクビでしたでしょうね。そういう情報もうっすらとですが入っていましたから。でも勝ってしまったことで、ラモス体制は7月22日まで続くことになるんですよ。

――結局、直近の5連敗でラモス監督は事実上の解任。吉田恵コーチが昇格しますが、10月にも5連敗して最下位に沈みます。よくぞあの状況から巻き返しましたね。

吉田 この本にも書いたんですけど、ウチが残留できた一番のポイントは、第39節の(ザスパクサツ)群馬戦で、センターバック(CB)の鈴木潤が故障して退いたことなんです。そこでボランチの磐瀬(剛)をCBに下げるのはわかるとして、バランサータイプの彼の代わりに攻撃の駒である田中パウロ淳一を入れたんですよね。あれはまさに「神の一手」だと思っていて、そこから岐阜の攻撃が活性化して残り4試合を3勝1敗でまくりましたから。

――吉田監督は、その化学変化をどこまで意識していたんでしょうかね?

吉田 たぶん読めてなかったんじゃないですかね。少なくとも潤が故障していなかったら、パウロを投入するという手を打ってくることもなかったと思う。結局、恵さんは今季限りとなりましたけど、僕は納得しています。ああいう一手を普通に打てる人なら継続だけど、僕はラック(運)だと思っています。もちろん、残留については感謝していますが。

――なるほど。ところで鋳造さんにとって「ラモス時代」を一言で表すとしたら何ですかね。

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