中野吉之伴フッスバルラボ

【きちルポ】「虎視眈々と準備をしながら」岡崎慎司プロ選手現役引退表明を受けて。欧州を駆け抜けたサムライに最大限の敬意を

▼ 誠実で、正直な人

岡崎慎司が今季限りでの引退を表明した。

膝の調子が良くないという話は聞いていた。「人工芝でのプレーは負担がかかるから」と苦笑していた。でも「岡崎慎司なら、また復活してくるに違いない」という思いの方が強かった。

数多くの苦難を乗り越え、あらゆるネガティブな感情をポジティブなエネルギーに変え、そしてチームを、クラブを苦境から救うスーパープレーの数々で僕らを魅了し続けてくれた。グラウンドに倒れても、相手に吹き飛ばされても、そのたびに立ち上がり、そのたびにたくましくなる。魂のプレーでスタジアムの空気を一変させたことは何度もある。

どんな試合後でもミックスゾーンで僕ら報道陣と話をしてくれた。誠実で、正直な人だ。試合で結果を出して上機嫌な時でも謙虚さは忘れないし、どこまでも貪欲。試合に出れなくてフラストレーションがたまっていてもそんな自分を隠さない。そして自分と向き合って戦って、また出場機会を勝ち取っていく。

過去の取材歴を調べてみた。僕が一番最初に試合会場で岡崎の声を拾ったのは、2011年2月24日のベンフィカ・リスボン戦だった。ヨーロッパリーグのベスト32セカンドレグ。もう13年も前だ。

アウェイでのファーストレグを1-2で落としていたシュツットガルトはホームの声援をバックに逆転での勝ち上りを狙ったが、ベンフィカの試合巧者ぶりに翻弄され、最終的に0-2で敗れた。岡崎は2人のDFを外してシュートに持ち込んだり、スルーパスで抜け出してシュートに持ち込むなど奮闘。地元紙からは「オカザキはこの試合における唯一の香辛料だった」と評価されていた。

岡崎も「ちゃんとポジションにもどれたし、基本的なことをやりながら+ゲームを作ったり、自分がゴール前にもはいっていけたし、少なからず理想の形には近づいてきたかなと」と手ごたえをつかむ言葉を残している。これがチーム合流3戦目。

当時は知らなかったが、後日、岡崎からこのベンフィカとの2戦で印象深いシーンがあったことを聞いたことがある。たしか、「海外でプレーし続けることのやりがいや楽しさというのをどのように受け止めているのか」という話だったと思う。

岡崎「やりがいを感じるっていうのは、僕もブンデスに行って、一番最初にこう言葉も喋れないけど、ベンフィカ戦で試合に使われて。それまでは全く受け入れ感もなかったんですけど、試合後にバスに帰ってきたら、『お前良かったな』みたいな感じですごい拍手されて。なんか気持ちいいなみたいな(笑)

日本を離れる時点で、それまで守られてたものが一切なくなるじゃないすか。何か一つ認められたときは全部、『自分が乗り越えた』っていうのがそこで出てくるんで。

その感覚にはやっぱ楽しみとかやりがいがすごいあるなと思う」

上記記事にあるように、スタジアムだけでの取材だはなく、個別でのインタビューでもとても丁寧に対応してもらえる。熱い話を何度もしてもらえた。本当に心からの感謝の思いでいっぱいだ。

いろんなシーンを思い出す。

(残り 2982文字/全文: 4458文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ