中野吉之伴フッスバルラボ

【ドイツ情報】オリンピック取材を断念する欧州ジャーナリストが激増中。オリンピックがオリンピックであるために必要なことを考えてみた

▼ オリンピックの意味と意義

7月に予定されている東京オリンピック開催まであと1か月少しとなった。新型コロナウィルスの猛威はいまだ決して軽視することができない状況というもあり、国内外で反対意見は多い。

今回はそもそもオリンピックが行われる意味と意義についてを考えてみたいと思う。

近代オリンピックはスポーツの祭典と呼ばれる。

歴史的な背景をたどると、古代ギリシャでは神様をたたえるお祭りとして、ギリシャ全土から選手が集まって行われていた。いわゆる《古代オリンピック》と呼ばれるものだ。

これを1500年以上たってから復活させようとした人がフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵。

クーベルタンが目指したのは、スポーツを楽しむことだけではなかった。スポーツを通して体と心をきたえ、世界のいろんな国の人と交流し、そして平和な社会を築こう》というのがオリンピック復活の主目的だとされている。

《勝つことではなく、参加することに意義がある》という「オリンピズム」という理念があってこそなのだ。そして1896年にギリシャのアテネで最初の近代オリンピックが開催され、今に至っている。
※参照 公益財団法人日本オリンピック委員会より引用

オリンピックは、そのスポーツと向き合い、心身ともに自分の限界を超えていくために日々取り組み、記録と結果と戦い続け、そうして出場権を勝ち取ったアスリート同士が、オリンピアズムの理念の中で、最高レベルのプレーでぶつかり合う舞台。

そしてそのフェアで純粋なひりひりする戦いぶりに、世界中の人たちが感動して、共感して、共鳴して、心からの声援と拍手を送り、スポーツの素晴らしさを改めて確かめ合える舞台だ。

僕たちは普段自分の近い世界しか知らない。どれだけネットワーク技術が発展し、スマホ片手に世界中の情報を手にできる時代になったとしても、自分たちがしっかりと把握できる世界観というのは、あくまでも自分の生活圏で起こりうることに関してだけだ。

世界中で起こるニュースはニュースでしかない。心痛めることはあっても、心から喜ばしいことはあっても、でもそれは今自分が生きている生活圏ではない、どこか遠くの世界の話。

そんななか、オリンピックのような世界規模で行われる魅力的なスポーツ大会で自分が応援している出場選手/チームを通して、その人の人生、そのチームの歴史、その国の様子、その地域の事情、そのスポーツの現状を疑似体験することができる。

現地で他国ファンと直接交流できたら、さらにその体験は色濃くなる。そうして、普段自分が知らない世界の話を見聞きして、自分の価値観をバージョンアップして、世界のあり方、未来のあり方をこれまで以上にリアルに考えることができるようになるわけだ。

《スポーツを通して心身を鍛える大切さ》
《アスリート同士の純粋でフェアな対決》
《大会を通して世界中の人との交流》
《平和な世界社会への共通認識》

オリンピックと銘打って開催するためには、このどれもが欠かせない要素として挙げられるべきなのだろう。

▼ ジャーナリストが取材できないオリンピック

そう考えたときに、今のやり方のままでオリンピックはオリンピックとして成り立つのだろうか。スポーツ選手にとってだけハイライトなわけではない。ファンにとってもそうだし、そんなファンへ伝える多くのジャーナリストにとっても心躍りまくる大会なのだ。

ドイツのラジオDeutschlandfunkがこんな話を報じている。

ルクセンブルク紙《ルクセンブルガーターゲブラット》のペッツ・ラフールさん。これまでに何度もオリンピックの取材を行ってきたベテランジャーナリストだ。本来であれば今回の東京オリンピックへも行くつもりだった。そんなラフールさんが寂しそうに語ったという。

「間違いなくいかないよ。私はすでにワクチン接種2回目も受けている。でも日本ではそれではダメだというんだ。それに加えて最初の14日間はホテル、試合会場、あとは組織委員会から指定されたレストラン、移動はメディアバスに限られる。最初の2週間は公共の交通機関を使うことはできない。

街を見て回ったり、いろんな発見をすることはできない。それも大会レポートに欠かせないものだけど、それができないんだ。いま日本の首都へ飛んで取材におもむくジャーナリストは、毎日記事を書くよりもチェックリストをつけることばかりで大変になりそうだ」

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