中野吉之伴フッスバルラボ

現地指導者との交流。一方通行ではない生きた言葉のやり取りがお互いの理解を深めてくれる 

▼池上正主催指導者研修レポートパート2

ドイツに実際に来てブンデスリーガを見るだけではなく、下部組織の取り組みや街クラブ育成年代の試合やトレーニングを実際に視察する。協会の方にレクチャーをお願いし、どのような育成指導者を、どのように育成しようとしているのかを直接聞く。前回のコラムではこのあたりについてをお話しさせてもらった。今回はブンデスリーガクラブのフォルトゥナ・デュッセルドルフでの視察、フォルトゥナ・ボンという街クラブのU12トレーニング、デュイスブルクとフォルトゥナ・ケルンU12チームのテストマッチの様子をお届けしようと思う。またただ外から見ておしまいではなく、今回は直接現地の指導者と言葉を交わす時間を多く持つことができたので、そのやり取りについてもご紹介したい。

MSVデュイスブルクU12対フォルトゥナケルンU12

ボンからバスで1時間弱のはずが渋滞に巻き込まれて1時間半以上かかってしまった。会場についたらすでに試合は始まっていたが、この日はテストマッチということで普段の30分×2本ではなく、25分×3本の変則マッチの形。おかげで十分に観戦することができた。

ドイツではU13年代は9人制。ピッチサイズはこれまでペナルティエリアからペナルティエリアという大人ピッチを一回り小さくしたのが基準サイズとされていたが、最近は各州で最適なサイズを求めていろいろと調整されているようだ。この試合ではゴールラインからゴールラインまでの縦幅とピッチ内数mのところにマーカーでラインを作って横幅を狭めていた。

ちなみにU13は日本でいう小学校6年生相当と考えてもらえたらと思う。欧州では生まれ年で年代分けを行い、例えば現在ワールドチャレンジで来日しているバイエルンは07年生まれの子どもで構成されているが、彼らはこちらではU13のカテゴリーに属する。こちらの学校は9月スタートの7月終わりなので、同じ学年でも違う年代でプレーすることが普通にある。07年9月生まれと08年5月生まれはこちらの小学校では同じ6年生(ドイツは小学生が4年生までなので厳密に言えば次の学校2年生)だが、07年9月生まれの子はU13、08年5月生まれはU12となるわけだ。

さて試合で日本からの参加者がまず指摘していたのがGKを使ったビルドアップの頻度と精度だろう。あたり前のように攻撃の組み立てにGKを使い、スムーズにパスを回していく。ボールが敵陣に入ると自然と前に出てスイーパー的な位置取りをする。そしてCBのパスのもらい方に無理がなく、ワンタッチでスペースにボールを運び、そこからさらにドリブルで少し持ち運んだり、あるいはFWにすぐ縦パスを当てたり、ボランチを経由して相手を揺さぶったりと駆け引きをしていく。守備ラインから縦に蹴りこむパスはほとんどない。

u12チームということは、まだ9人制を初めて間もない子どもたち。でもほとんど戸惑いも大きなほころびもない。個の力にだけ頼ったサッカーではなく、どのように互いの個を生かしあうかを考えてプレーしている様子がうかがえた。

指導者はどうだっただろうか。デュイスブルク(トップチームは2部所属)の指導者はチャレンジしたミスに対しては決して文句をいわない。むしろ褒める。どんどんとチャレンジをさせる。ただ油断したり、不用意な判断でボールを失ったりするとぴしゃりと指摘する。

一方のフォルトゥナ・ケルン(トップチームは3部所属)は監督が少し感情的になりやすいタイプのようだ。同じミスが続くとつい言葉が出てきてしまう。ドイツにもそういう指導者はいる。ただフォルトゥナ・ケルンではアシスタントコーチに若いが冷静で理性的なタイプの指導者がセットになっていたことが興味深い。ボールアウト時などにスッと前に出てプレー内容に対して落ち着いた声で子どもたちにヒントを与えていく。このあたりの役割分担がうまくいっているとチームとしてのバランスもとても取れるはずだ。

監督だけが発言権があるわけではないし、それではコーチが生きない。お互い違う特徴がある指導者同士、サポートし合える関係性とそれぞれ得意なアプローチができるようにすれば、お互いが成長できる。
いずれにしてもどちらのチームの指導者、あるいは保護者から罵声は一つもなかった。

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