中野吉之伴フッスバルラボ

【マッチリポート】欧州プレーオフ「スイス×北アイルランド」で改めて感じた、ワールドカップに出ることのすごさ

▼ ロシアW杯欧州予選プレーオフ

セカンドレグ当日は雨が降っていた。

バーゼルのザンクトヤコブパークにはレインコートに身を包んだサポーターが続々と集まってくる。ただ、雨の影響だろうか。両国熱気のぶつかり合いはまだ感じない。試合開始2時間前に会場に着いた僕は、雨を避けるようにメディアセンターへと急いだ。ゲートはまだ閉ざされ、サポーターは身を寄せ合ってゲートが開くのを待ち望んでいる。

スイスと北アイルランド。セカンドレグを前にした両チームの立ち位置はどうだろうか。

ファーストレグでは、たった1つの判定が試合を決定づけてしまった。57分のシーン。スイスのジェルダン・シャキリが打った左足のダイレクトボレーが、シュートブロックに入ったコリー・エヴェンスの手に当たったとして主審がPKの判定を下したのだ。これには北アイルランドの選手たちは猛抗議。

ボール方向へアクティブな手の動きはなく、むしろ引っ込めようとしていた腕に当たったように見えていただけに、北アイルランドにとっては納得がいかない極めてグレーな判定だった。僕にしても、いま世間で賛否両論に別れているビデオ判定制度は、まさにこういうときのために導入してほしいと思ったものだ。いずれにしても判定が覆ることはなく、このPKをリカルド・ロドリゲスが確実に決めて、スイスが1-0で先勝した。

だが戦いはまだ終わっていない。すべてをかけた一戦。その舞台はベルファストからバーゼルへと移った。

確かにあのPKはファーストレグでの試合の行方を変え、そして両チームの動きを変えた。序盤は消極的だったが、終盤は迫力のある攻撃でスイスを押し込んでいった北アイルランド。押し気味に試合を進めながら1-0で終わってしまったスイス。初戦の展開と結果を見る限り、まだどちらが勝者として残るのかはわからない。

そこへこの雨だ。普段からピッチ状況が悪いバーゼルのグラウンドは、どちらに有利に働くのだろうか。北アイルランドがパワープレーで一気に主導権を握ろうとするのか。スイスが自分たちの得意な形をある程度封印して相手を潰していくのか。

天候やピッチコンディションが悪条件になるほど、予期せぬ事態は起こりやすくなる。なんでもないクロスボールからとてつもなく危険なシーンになることは想像できる。予期せぬ事態を予期しようとした戦い方を選ぶのか。予期せぬ事態を念頭に置かずにプレーを進めるのか。頭で考えすぎると体の反応は遅れていく。だが、考えがないと対応はできない。どこまでを整理し、どこから吹っ切れた戦いができるか。そこが大きなカギを握りそうだ。

▼ 自分たちの強みを信じたスイス

スイスは培ってきたものを信じた。

「今日だけではなく、この予選の長いプロセスの中でよくやってくれた。予選ではずっと優れたプレーを見せ、相手を凌駕する試合展開ができていたのだ」

試合後、ウラジミール・ペトコビッチ監督がこう振り返ったように、ボランチのグラニット・ジャカを中心にボールを支配し、サイドを起点に攻撃を組み立てた。守りを固めるのではなく、主導権を握ってゲームをコントロールしようと果敢な姿勢を崩さずに、前への圧力を高めていく。

一方の北アイルランドも勇敢な戦い方を選んだ。

ボール保持者に果敢にプレスをかけにいく。ボールを奪うとスピードのある選手が一気にスペースに飛び出してどんどんカウンターを仕掛けた。

ピッチコンディションは良くないはずだが、両軍ともパスもトラップも乱れない。ぬかるみに足をとらえる選手は一人もいない。中盤ではボールを巡って激しい闘いが繰り広げられたが、危険なプレーはほとんどなく、ピッチに倒れこむ選手もいない。意志と意志のぶつかり合い。互いにゴールを目指して仕掛け合う。

スイスサッカー協会からピッチ脇の席をあてがわれた私は雨に濡れながらも、すぐに試合へと引きづりこまれていった。

前半の半ば、北アイルランドがスイスのCKを跳ね返すと素早くカウンターに入った。敵陣深くに送られたスルーパスからジェーミー・ワードが抜け出そうとしたが、並走していた右SBのシュテファン・リヒトシュタイナーが抜群のタイミングでスライディングタックルし、これをクリア。北アイルランドはそのままタッチラインを割ったボールから即スローインで畳みかけようとするが、すでに帰陣していたスイスはしっかりと対応する。互いに譲らない展開が続いていく。

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