「football fukuoka」中倉一志

【中倉’Voice】強いアビスパ福岡を目指して迎えたアビスパ福岡30年目の春。クラブに関わる全ての人たちの新しい挑戦が始まる

3連休の中日にも拘わらず、いつもよりも早く布団から抜け出す。キックオフの時間まではまだ数時間もあるが、そそくさと支度をして家を飛び出す。行先はベスト電器スタジアム。その道すがらレプリカユニフォームを着ている人を見かけるたびに気持ちが高ぶっていくのを感じる。そしてスタジアム前広場に続く階段を登れば、そこには大勢の仲間の姿がある。先日、公開トレーニングの時に雁ノ巣で見かけた人と言葉を交わし、いつもの仲間を見つけてはアビスパ福岡談議に花を咲かす。
アビスパ福岡として30回目の春。2月24日、ベスト電器スタジアムに日常が戻ってきた。

スタンドに続く階段を登れば目の前にきれいに整備された緑の芝生が広がる。Jリーグに関わるようになってからすでに両手では足りないほどの時間を過ごしてきたが、初めてJリーグのスタジアムに行った時の感動が蘇る。いつもの指定席に向かえば、いつもと同じ席に顔なじみの仲間の顔が見える。名前は知らない。詳しく話したこともない。けれどもどちらからとも言わずに目を合わせ、軽い会釈で挨拶を交わす瞬間も心地よい。そして新しいシーズンと新しいチームとの出会いに期待と不安が入り混じる。数えきれないほど通ったスタジアム。けれど、その想いはいつも変わらない。

ウォーミングアップのために選手がピッチに登場すると、スタジアムがチャントと手拍子で包まれる。スタジアムDJとコールリーダーの合図に合わせて、これ以上ない大きな声で選手に名前を呼ぶ。新しいチームがどんな戦いを見せるのか。はたしてどんなシーズンになるのか。それは終わってみなければ分からないのは承知の上だが、どんな時も、これから始まる90分間は勝利だけを信じて選手とともに戦い続けてきた。それもアビスパ福岡と出会ってから変わらない想いだ

キックオフを告げるホイッスルとともにアビスパが躍動する。高い位置からの連動したプレスの強度は昨シーズン以上。攻守の切り替えの早さ、ゴールへ向かうスピード、さらには意図してボールを動かしながら前へ進む姿も昨シーズンを上回る。左サイドから攻守にわたってアグレッシブに走る岩崎悠人。ボランチの位置で攻守に存在感を見せる重見柾斗。新加入の選手が躍動する姿に歓声が沸く。そして最終ラインで先発の座を勝ち取った田代雅也と井上聖也のプレーを見て、改めて誰が出てもチームとしての力は変わらないアビスパ福岡の力を実感する。

後半は北海道コンサドーレ札幌のリズム。人と立ち位置を変えて前への推進力を増した札幌の前にプレスのスイッチが入らず、全体が間延びして生命線である高い位置からの連動したプレスが機能しない。それでも最終ラインの安定感は崩れない。結局、前後半を通して決定的チャンスを与えることなく無失点に抑えた。結果はスコアレスドロー。昨シーズンまでに築き上げたチームのペースが機能したこと。新加入の選手が特徴を発揮したこと。そして無失点に抑えたことは収穫。前半に良いリズムを作りながらもラストサードを崩しきれなかったのは課題。収穫と課題の両方を得た試合を、奈良竜樹は「良いスタートとは言えないが有意義なスタートになった」と振り返る。

いよいよ始まった38試合。これまでと同じように思うようになることもあれば、思うようにならないこともある。過去4年間にわたってクラブの歴史を変えてきた自分たちの記録をさらに上回ることを目標にしてスタートした今シーズンは、これまでとは違って我慢のシーズンになるかもしれない。「これで弱いアビスパともさよならです」とはルヴァンカップ優勝時に城後寿が口にした言葉だが、さらに強いアビスパになるためには、目の前にある高い壁を乗り越えていかなければならない。

「自分たちが何をどうしていくのかというのが大事。目標はもう定めてある。その目標に到達するためにどうするのかということを、選手、コーチ、そしてファン、サポーターと一緒に歩んでいきたい、突き進んでいきたいと思う」(長谷部茂利監督)
その言葉を胸に刻んで、今年もアビスパに関わる全ての人たちの心を一つにして戦いたい。それがアビスパの最大の特徴であり最大のパワー。お楽しみはここからだ。

[中倉一志=取材・文・写真]

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