【無料記事】私とJリーグとアビスパと/ハラハラドキドキしびれる戦い。これがW杯アジア最終予選:【フットボールな日々】
W杯アジア最終予選第7節。中国に攻撃の形をほとんど作らせず、許したシュートは1本だけ。力の差を結果に表した2-0の勝利は問題のないものだったように思う。最終的にサウジアラビアとオーストラリアとの三つ巴の戦いになると予想されることを考えると、もっと得点が欲しかったという気もしないでもないが、W杯最終予選はまずは勝利することが最優先。まずは合格点。期待通りの結果だったと言えるだろう。
その反面、不思議な緊張感に包まれている自分がいた。その内容からして勝点を落とすことはないと頭では理解していても、サッカーは何が起こるか分からないスポーツ。いくら攻めていてもゴールを奪うのは簡単ではないし、どんなに優勢に試合を進めていても事故のような失点を食らうこともある。どこかで何かが緩んでしまえば、何かの拍子に相手にビッグプレーが出れば、かかっているものが大きいだけに流れが一気に変わることもある。試合終了のホイッスルが鳴るまでTVを凝視している自分がいた。
実際、日本はその両方を経験している。
最後の最後で涙にくれたのは1994年アメリカW杯・アジア最終予選の最終戦のイラク戦。いわゆるドーハの悲劇だ。最終戦を迎えて6チーム中5チームがW杯出場の可能性を残す大混戦。日本は勝てばW杯初出場が決まり、敗れれば予選落ち。引き分けの場合は他会場の結果次第という立場にいた。そして2-1と1点リードで迎えた後半ロスタイムにそれは起こった。CKにニアでオムラム・サルマンが頭で合わせたシュートが、ゆっくりとした放物線を描いて日本のゴールネットを揺らした。まさしくラストプレーでの失点。ホイッスルと同時に日本のW杯出場を祝おうと缶ビールのブルトップに指をかけていた私は、何が起こったのか分からず呆然としていたことを覚えている。結局、サウジアラビア、韓国が勝利したため日本はラストワンプレーでW杯出場を逃した。
歓喜の涙を流したのは1998年フランスW杯アジア最終予選のアジア第3代表決定戦。ジョホールバルの歓喜と呼ばれている試合だ。W杯初出場の期待がかかる中、日本は初戦のウズベキスタン戦に6-3で勝利したものの4試合(全8試合)を終えて1勝2分1敗。先が見えない展開に加茂周監督が更迭され、岡田武史コーチが監督に就任。しかし流れは変わらずにウズベキスタン、UAEとも引き分けて2試合を残して1勝4分1敗。悲願のW杯出場は絶望かと思われた。
だが、韓国・蚕室に乗り込んで戦った日韓戦を2-0で勝利して息を吹き返すと、最終戦でカザフスタン戦に5-1と圧勝。第3代表決定戦へと駒を進めてジョホールバルへ乗り込んだ。NHKの山本浩アナウンサー(現法政大学スポーツ健康学部教授)の「このピッチの上、円陣を組んで今散った日本代表は私たちにとって彼らではありません。これは私たちそのものです」という名台詞で始まった試合はまさに死闘と呼べるものだった。
先制したのは日本。39分、中田英寿のスルーパスを中山雅史が流し込む。イランも黙ってはいない。後半開始直後の46分にアジジがこぼれ球を押し込んで同点とすると、59分にはアリ ダエイがヘディングを決めて逆転に成功する。しかし日本も粘る。75分、途中出場の城彰二が中田のクロスボールに頭で合わせて再び同点。そして試合は延長戦へと突入する。延長戦も一進一退の攻防。日本は快足を飛ばす岡野雅行が何度もチャンスを迎えるが、ことごとくシュートを外してしまう。
しかし最後に劇的なゴールが待っていた。このまま勝負はPK戦に持ち込まれるかと思われた118分。中田が放ったシュートがこぼれたところに現れたのは岡野。滑り込むようにして右足で合わせたシュートがゴールを捉え、日本のW杯初出場が決まった。
一時は最終予選突破は難しいと言われ、各メディアは日本の戦いを叩きに叩き、国立競技場で戦った第6戦のUAE千に引き分けた時は、サポーターが選手バスを取り囲み、パイプ椅子が投げつけられるという事件も起こった。そこからよみがえった日本代表。最後まで諦めなければ何かが起こる。そんなことを教わった最終予選だった。
さて、日本がW杯最終予選で厳しい戦いを強いられているのは、このフランス大会最終予選以来のこと。3試合を終えて1勝2敗の日本代表を、あの時のようにメディアはネガティブな内容で報じていた。だがそこから日本は4連勝。決して圧勝したという試合はないが、それがW杯最終予選。日本はあの時と同じように諦めることなく1試合ずつ戦って勝点を伸ばしてきた。その結果、各メディアはポジティブに報じることが多くなったが、それも違う。まだ3試合を残している今、先のことは誰にも分からない。
これからも内容、結果に拘わらず緊張感溢れる戦いが続く。順調に勝点を積むこともあれば、再び勝点を落とすこともあるかもしれない。でもそれもサッカー。これからもハラハラ、ドキドキの試合が続くだろう。残された対戦カードを見れば、最終戦にまで持ち越され、しかも勝利するだけではなく他会場の結果によって順位が決まる可能性すらある。何があっても最後まで日本代表に付き合い、ハラハラドキドキを楽しみたい。それがW杯最終予選。その先にカタールの舞台が待っているはずだ。
[中倉一志=文/写真AC=写真提供]