「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】フリーランスライターのつぶやき。私が今シーズンも公式戦全試合取材を続ける理由:【フットボールな日々】

Jリーグの日程とにらめっこしながら「乗換案内」でルートを探す。2004年にアビスパの公式戦全試合を取材することを思い立った時からのプレシーズンの恒例行事だ。取材費用のすべてを自前で賄わなければいけないフリーランスにとって、ルート決定の最優先事項は「安い」こと。各航空会社のサイトを見比べ、JRの割引切符を探し、様々な状況をシミュレーションしながらルートを決める。ホテルは支障がない限り同系列のホテルを選択。ポイントを貯めれば無料で宿泊できるサービスがあるからだ。

「青春18きっぷ」を除けば、あらゆるルートを使った。かつては安いという理由で深夜バスもよく利用した。岡山、四国方面、関西方面なら直行で、仙台、山形には東京へ飛行機で飛んでから深夜バスで移動するのが常。愛媛、大阪ならフェリーを利用することも多かった。ありがたかったのは航空会社が予約時期によって異なる運賃を採用するようになったこと。年間日程が発表されたと同時に手配すれば、今ではあらゆる交通手段の中で飛行機が一番安くなった。しかも時間的にも最も楽。さらに言えば、2004年当時は東京へ一泊で取材に行けば、どのように工夫しても30,000円を越えたものだが、今はどこへ行っても30,000円を切ることが多くなった。

さて、なんで全試合を取材しようと思い立ったのかと言えば、それほど高尚な理由があるわけではない。人のやっていることを見て意見をするなど勝手な言い草。それを仕事にする以上、その人のことを少しでも多く知ることが礼儀だと思っているからだ。コロナ禍では取材も制限されているが、雁の巣に毎日のように通っていたのも、何かのネタを拾いに行っていたわけではなく、ただその人のことを見ていたかったからだ。見ることで分かることは意外に多い。

欲張りなもので、知れば知るほどもっと知りたくなる。あるいは自分が感じたことが正しいのかどうかを確かめたくなる。だからまた足を運ぶ。そんな欲求が高じて見ることができるものは全部見たい、そう思うようになったことが公式戦のすべてを取材する理由だ。

だが、コロナ禍では取材環境は大きく変わった。選手と直接触れ合うことは禁じられ、Jリーグ公式戦の取材はZOOMによる共同取材に限られるようになり、今はJリーグの全試合がライブで配信されていることも手伝って、現場に足を運ばなくてもメディア向けの情報はメディアであれば誰もが等しく手に入れられるようになった。感染予防のために県境を越えての移動を避けているという理由もあるのだろうが、福岡に限らず、アウェイの試合に足を運ぶ記者は確実に減っている。

それでも、同じ時間と空間を共有することによって得られる緊張感や喜び、悔しさ、会場を包み込む空気等々、その場所にいる人でしか感じられないことは多い。しかもサッカーはピッチの上で起こったことや、監督や選手が口にした言葉だけがすべてではない。試合前の出来事、試合後の出来事、スタジアムに集うファン、サポーターの想い、そういったことを含めてサッカーは成り立っている。だからアウェイに足を運ぶ。

そして今年もすべての試合を取材することを決めている。割引料金が適用されないゴールデンウイークの京都戦と、お盆休みに行われる鹿島戦の遠征費用をいかに安くあげるかという難題に頭を抱えながら、少しでも多くのものを見て、多くのことを感じて、それを多くの人たちに伝えたいと思う。それは取材を許可してくれるJリーグ、クラブに対する義務であり、多くの人たちに支えられて仕事をしている自分が取れる最低限の責任だと思うからだ。

[中倉一志=文・写真]

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