「football fukuoka」中倉一志

【フットボールな日々】勝負の世界では勝ってこそなんぼ。勝点1を得た清水戦に対する選手たちの言葉に気づかされたこと

逞しくなったな。清水戦の翌日、そんなことを考えながら選手たちの話を聞いていた。清水戦で2度のビハインドを追いついたことや、同点ゴールが後半のアディショナルタイムに生まれたことは、いくつかある理由のほんの一つに過ぎない。選手たちの態度と言葉に逞しくなったと感じたのだ。一夜明けた選手たちは誰も同点に追いついたことに触れない。そして、誰もが早い時間帯に喫した失点が問題だったと口にしたからだ。

正直に話せば、私の考えが後ろ向きだったのかもしれない。5年ぶりのJ1の舞台が難しい戦いあることは承知の上。開幕戦、そしてルヴァンカップの結果は力の差を表すもの。しかも対戦相手はJ1の優勝候補の一つとして注目を浴びる清水エスパルス。アウェイということを考えれば勝点1で悪くない。ましてや2度もリードを奪われた試合の結果としては上出来ではないか。そんなふうに感じていた。だが、選手たちは違った。当たり前のことだが、彼らは正面から勝ちに行っていた。

そんな彼らを逞しく感じるとともに、自分の弱気な姿勢が恥ずかしくなった。
2016年に4度目の降格をしてから、チームは思うような成績を残せずにいたが、クラブは成功と失敗を重ねながら、あるべき姿に向かって確実に歩みを進めていた。それが具体的な形になって表れたのが2020年のチーム編成。そしてアビスパは過去の歴史には感じられなかった逞しい戦いでJ2を駆け抜けた。その成長を分かっていたつもりだった。だが清水戦を終えて、恥ずかしながら彼らの成長は私の理解を上回っていることを知った。

清水戦の翌日、J1でやっていける手応えが強くなったのではないかという私の質問に、長谷部監督は険しい表情で次のように答えた。
「言葉にするのであればまだまだ。我々は得点をすること、得点を防ぐことで勝点が取りたいわけで、結果につながっていない今、内容が少し良くなったという実感はない。言葉に出すとしたら、こういうことしか言えない」
当たり前のことだが、アビスパはいい試合をするために戦っているのではない。勝利という結果だけを求めて戦っている。

翻って見れば、5年前にアビスパが勝点を挙げたのも第2節。今シーズンと同じく勝点1を手に入れた。しかし、その意味はまったく違う。5年前は終了間際まで1点をリードしていたが、ゴール前の不用意なファールで直接FKを献上。中村俊輔に決められて勝点2を失った。そして今シーズンは最後の最後で同点ゴールをゲット。不用意なミスから失点し、失いかけた勝点3のうち、自らの力で1を取り戻した。同じ勝点1でも、その違いは大きい。

そして10日、アビスパはホームに横浜F・マリノスを迎えてJ1第3節を戦う。今シーズンはまだ勝星のない横浜F・マリノスだが強豪であることは誰もが知っている。アビスパにとっては難しい試合になることも間違いないだろう。だが、過去にない逞しさを身に付けた選手たちは勝利のためだけにピッチを走る。どちらが勝利を得るのかはサッカーの神様だけが知ることだが、微力ながら私も記者席で彼らとともに戦いたい。誰に何を言われてもいい。信じるのは勝利だけ。アビスパの未来はその先にしかない。

[中倉一志=文・写真]
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