石井紘人のFootball Referee Journal

【無料】飯田淳平&今村義朗インタビュー前編:日本サッカー審判協会(Referees Association Japan)とは?リフォームは「山内宏志さん、松崎康弘さん、布瀬直次さんをはじめとして」

今年2月、日本サッカー協会(JFA)と契約するプロレフェリー(PR)である山本雄大氏が、FUJIFILM SUPER CUPの生解説に登場するというツイートを見かけた。

引退したトップレフェリーの方が解説することはあった。が、私の記憶では現役のレフェリーが、自身も割り当てをうけるトップリーグの公式戦の解説に登場したことはない。

そのツイートを辿ると、主催となる発信源はRAJ

見慣れない文字だったが、URLをクリックすると、日本サッカー審判協会(Referees Association Japan)の文字が。

日本サッカー審判協会の存在(参考記事:日本審判協会とは?)は私も知っていた。

ただ、失礼を承知でいえば、年配の方の組織だと思っていた。実際に「RAJが新しくなります」のページには「現RAJ活動に対する危機感」「若い会員のニーズ対応」(参照リンク)と記されている。

そして、新たなRAJの会長に飯田淳平PR3名の副会長の一人に今村義朗PRが就任した。

飯田PRは国際審判員としての活動だけではなく、東京都で上級レフェリーのトレーニングも行っていた。

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【石井紘人コラム】今村義朗

そんな二人が、RAJの会長と副会長として、どのような展望を持っているのか。インタビューを行った(取材日:2023612日)。前編と後編に分けて掲載する。

 

――日本の審判制度を分かりやすく言うと、四級や三級は各FA(都道府県サッカー協会審判委員会)、二級は地域サッカー協会の担当になります。一級までいけば、横の繋がりも深まるかもしれませんが、三級から二級を目指す方や二級の方は同じ志の横の繋がりを、全国大会に行かない限り見つけ辛い。そのためにRAJがある。私はRAJの設立趣意をそのように解釈したのですが、お二方とも役員に就任する前、RAJとはどのような関わり方だったのでしょうか?

 

今村「私が住む関西には、RA関西もあったようですが、私はRA滋賀に入っていました。ただ、私が入る前のRA滋賀は凄く存在感が薄かったです。そういった状況を、副審の村井良輔さんのお父様が変えられました。たとえば夏の大会を終えた審判員全員を集めて、バーベキューを開催し、ビンゴも行って審判員のグッズを配ったりもしていて。そういった“審判も個々ではなく、審判チームになろう”という姿勢に共感して、RA滋賀に入りました。」

 

飯田「私はどのタイミングで入ったのか覚えていないのですが、確か三級審判員か二級審判員の時に、RA東京に入りました。ただ、私の関りとしては、年に4回送られてくるRAJの機関紙『ホイッスル』を読むのが基本でした。

RAJは組織構造もJFAとは違います。JFAの下に地域サッカー協会があって、その下に都道府県サッカー協会があります。たとえば、審判資格でいえば、私は東京都で取得したので、東京都サッカー協会のもとで審判活動を行わなければいけません。でも、RAに関しては、私がRA滋賀に入ることも出来ます。

RAJは、RAJの下にピラミッドのようにRA東京がある訳ではありません。なので、RAがない都道府県もあります。とはいえ、RAJと各RAは、まったく関わりがない訳ではありません。

たとえば、RAJの予算にて、RAで行う年に一度のサッカー大会を支援しています。昨年は北九州で行ったのですが、その運営費をRAJが補填もします。ピラミッドではなく、コミュニティという感じです。」

 

――なるほど。飯田さんは会長としてリフォームを引っ張られていたのでしょうか?

 

飯田「いえ、RAJが新しくなるというのを聞いていただけでして、山内宏志さん、松崎康弘さん、布瀬直次さんをはじめとして、議論をしていたようです。今の時代にRAJが出来ることがあるのではないか?ということで、リフォームを進められた。その中で会長と副会長には現役の一級審判員が良いのでは?ということで、私と今村さんに話が来ました。RAJは、20236月にJFA関連団体となりましたから、そういった意味でも一級審判員が会長や副会長にいることで、設立趣意にもあるJFAとの緊密な連携を図るのだと思います。」

 

――飯田さんは現役の国際主審ですから、その知見も取り入れたいというのもあるでしょうね。今村さんは如何ですか?

 

今村「私も同じです。山内さんから、「現役審判員として色々な意見があると思うので、今後のRAJの議論に入ってくれませんか」と声掛けして貰いました。同時に松崎さんからも「現役の一級審判員を代表してRAJの役員に」とオファーを頂き、副会長に就かせて頂きました。私が現在46歳で、Jリーグ担当審判員としての区切りを50歳と考えた時に、また5年前後あります。一級審判員の中でも年長になりますから、自分のこと以外、審判界全体のことも考えたり、たとえばRAJで出来ることがあるのであれば構築もしていかないといけないですよね。そういった点を、副会長という立場には求められるとも思っています。」

 

――RAJにしか出来ない事にどのようなことがありますか?

 

飯田「正直に言えば、RAJがなくても日本の審判界は成り立つと思います。でも、RAJだから出来る事もあります。審判員は、各地域や都道府県のサッカー協会に所属しているので、地域が変わると繋がりは出来にくい。たとえば、東北地方で「今村さんのコミュニケーションについて訊きたい」と思っても、「えっと、これって、どこに申請するんだろう」って難しいですよね。」

 

――そうですね。おそらく、JFAの広報に問い合わせして、そこから審判部、そして今村さんという順序になるかと思います。

 

飯田「でも、RAJであれば、もっと素早いサポートが出来ると思います。」

 

――確かに、今回の私の取材依頼もスピーディーでしたし、RAJで様々なイベントも行っていますね。

 

飯田「それは縦ではなく、円、〇、横のRAJだから出来ることではないでしょうか。JFAは非常に大きな組織ですから、色々な順番があるのは仕方ないですよね。

私は選手会の活動、たとえばチャリティー募金など素晴らしいなと思っていまして、審判界も何か出来ればと考えています。

たとえば、Jリーグの試合があるスタジアムでは、キックターゲットなどが行われているじゃないですか?エンターティメントの一つとして、ご家族連れの方々に笑顔を届けていますよね。

そこで、我々審判界も例えばオフサイドの見極めが出来るゲームを行う。それは審判への理解が深まるきっかけとかではなくて、単純にエンターティメントとして楽しんでほしい。笑顔を届けて、審判界も世の中のためになる活動を行いたいですね。」

 

今村「そうですよね。なので、私は加えて、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントの窓口をRAJに作りたいです。やはり、ピラミッドの組織だと、上に進みたいがために我慢してしまう。もしくは、上に進ませたくてやりすぎてしまう可能性もありますよね。RAJは円や〇や横の組織なので、そういった相談に乗りやすいはずです。私はRAJを通じて、もう一つコミュニティが出来て、そのコミュニティが人生を豊かに出来るようなイメージをしています。」

 

――それは非常に面白いですね。そういった意味では、一級審判員たちがRAJを通して、JFAに何かを要求することも出来ますよね。労働組合的に。スペインではリーガF担当の女性審判団が、プロの地位とラ・リーガの審判団と同等の報酬を要求し、「現在の労働条件と経済状況では女子トップリーグの試合で審判をしない」とストライキを宣言しました。そして、スペイン男子1部・2部の審判員は、リーガFの審判員に連帯する声明も発表しました。

 

飯田「決して、JFAと『VS』になるための組織ではないので、労働組合的というよりは、審判員コミュニティという表現が近いかもしれません。また、我々がストライキをする予定もありません()ただ、御指摘頂いたような審判員のための組織はなかったのは事実ですし、審判員の環境改善のために働きかけはしてきます。たとえば、いま、お母さんレフェリーが増えていますよね。試合会場に託児所があれば、トップレフェリーはもちろん助かりますし、男女関係なく子育てをしながら、トップレフェリーを目指すことも出来ます。一級審判員だけではなく、そういったグラスルーツの審判員の声も集約して、カイゼンへの働きかけを行っていきます。」

 

――なるほど。JFAは組織上、技術委員会も審判委員会もトップダウン的になります。一方のRAJはグラスルーツ含めた審判員のコミュニティといった所でしょうか。

 

飯田「そのためにも、JFAの関連団体として活動するというのは非常に大きなことだと思っています。JFAとは『VS』ではなく『協力』して補完し合って、審判員の環境をよりよくしたいと思っています。

いま、グラスルーツというワードがでましたが、二級審判員や三級審判員の人達も、トーナメントに繋がる試合を担当されます。人間だから仕方のないミスもある。そのミスを、動画で撮られて、社会問題にもなっていますが面白おかしくSNSで拡散されてしまったら

 

――そういった時にRAJが声明を出して守れる、と。全国的に見れば、地域での小さな問題かもしれないので、JFAに届かなかったとしても、その地域で生活する審判員の方にとっては重大な問題ですよね。

 

今村「そういった意味でも、審判員のモチベーションも上げる活動も行いたいです。上級のレフェリーだけでなく、頑張った人には記念品を贈るとかがあっても良いと思います。そういった表彰の場もあれば、参加する人も増えて、コミュニティも大きくなっていくじゃないですか。それによって、色々な話も生まれ「こんなことも出来るのでは?」という新たな発想もボトムアップ式に生まれてくるかもしれません。

今行っている活動でいうと、RAJ内部では、山内さんや赤坂修さんが中心となって研究委員会を立ち上げています。」

 

――そういった活動もされているのですね。これはJFAがそうという意味ではなくて、一般的に年功序列の新陳代謝のない組織だと固まってしまうことが多々あります。たとえば、もし審判界でも指導が古いままで止まっているようであれば、RAJが勉強会等で補完できるということですね。

 

飯田「はい。審判員の資格取得や研修会はJFAになります。RAJでは勉強会や交流会を、フランクにフラットに行えればと思っています。」

 

>>>後編に続く

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