石井紘人のFootball Referee Journal

無料/飯田淳平インタビュー後編:選手より過酷な国際審判員(FIFAレフェリー)の移動とAFCが求めるレフェリングとは?

「審判員」。サッカーの試合で不可欠ながらも、役割や実情はあまり知られていない。例えば、「審判員」と法を裁く「裁判官」を同等に語るなど、本質の違いを見かけることもあれば、「審判員にはペナルティがない」という誤った認識を持っている人も少なくはない。

罰するために競技規則を適用しているわけではなく、良い試合を作るために競技規則を適用していく。それが審判員だ。

そんな審判員のインタビューを、『サッカーダイジェスト』と『週刊レフェリー批評』(株式会社ダブルインフィニティ)が前編と後編に分け、隔月で連載していく。

第3回は日本サッカー協会(JFA)と契約するプロフェッショナルレフェリー(PR)である飯田淳平氏にインタビューを行った。

 

取材・文●石井紘人 @targma_fbrj

 

>>前編はこちら

 

――飯田さんは国際審判員としても多くの割り当てを受けています。AFC(アジアサッカー連盟)チャンピオンズリーグ(ACL)ですが、Jリーグクラブは東地区。それに合わせて、日本の国際審判員は西地区になります。選手たちの移動は2~6時間ですが、レフェリーは10時間以上と倍になります。移動時間や手段含め、大変ではありませんか?

 

「移動手段は、ACLやワールドカップ(W杯)アジア予選はAFCがビジネスクラスを用意してくれます。

ただ、AFCカップや単発のAFCの大会、たとえばU-23選手権、研修会などはエコノミーでの移動です。空港から数百キロを車で移動しないといけないこともありますが、私は移動にそこまでストレスを感じません。ただ、PR以外の仕事と審判員を両立されている方々は、私以上に大変だと思います。

日本から海外の試合を担当する時は気にならないのですが、日本に戻ってきてからの6~8時間の時差は辛いですね」

 

母国語ではない意思疎通の難しさ(参照リンク

――国際試合とJリーグにどのような違いがありますか?

 

「言語の違いです。英語という共通言語はありますが、母国語での深い意思疎通とは違いますよね。たとえば、我々日本人だけではなく、国際試合ではベンチに対してカードが出ることが多い。Jリーグであれば、お互い落ち着いて会話が出来るので、カードのラインまでエキサイトしません。

一方、AFCが求めているのは『強さ』のように感じています。

AFCの試合のほうが、分かりやすく言えば、カードでコントロールすべきと考えられています。目の前の試合、目の前の相手、目の前のボールにガツンと来る選手たちに、こちらもスイッチを入れておく。

今回、カタールW杯にアジアからノミネートされたレフェリーは、ルックスは落ち着いて見えるけど、内心に燃えたぎるような『強さ』を持っていて、スイッチ一つで全面に出していく印象があります。

Jリーグの場合は、エンパシーを駆使しながら、選手と共存して試合をひとつの作品のように作り上げていく。カードは少ないほうが印象も良いですよね?

海外の試合はカードの枚数をあまり気にしないようです」

 

―確かにJリーグの試合だと、カードの枚数が多いだけで批判的な空気になりがちですね。AFCからは国際審判員の皆様はポラール(トレーニングガイダンスや、心拍数、24時間/365日のアクティビティトラッキング、睡眠とリカバリーを自動的にモニタリングする機械)で管理されているのでしょうか?

 

「それを受けるのは、カタールW杯候補にノミネートされたチーム佐藤(隆治主審・山内宏志副審・三原純副審)さん含めた10のトリオ(主審と副審のセット)だけではないでしょうか。私たちにはありませんでした」

 

――AFCの試合後には、どのようなフィードバックがあるのでしょうか?

 

「日本みたいに『〇点です』とかはなくて、最近では点数の記載されてないコメントのみが送られてくるようになりました。

たとえば、先日のACLの西アジア地区のグループAからEでは、開幕前に3日から4日間のセミナーがありました。30人くらいの審判員が集められて、たとえば『肘打ちには絶対にレッドカードを出してください。なぜならアジアからそういった行為を排除したいから』といったことや、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)導入試合ではなかったので、主審や副審に求めていることもシビアに言われます。フィットネスチェックもあって、大会に臨むにあたりのフィジカルを確認されるので、緊張しました。

大会が始まると、1試合毎にフィードバックが行われます。日本の場合、皆で『これはどう思う?』『私は〇〇』というようにディスカッションするのですが、AFCでは『これは〇〇だ』と指示になります。なので、自分の評価はフィードバックで分かります。その指導をするインストラクターはマレーシアのスブヒディン・モハマド・サレーです」

 

――2004年のアジアカップ準々決勝で宮本恒靖選手とのコミュニケーション後にPKの使用ゴールを変更した主審ですね。ACLは日本よりも固まった指導で、ある意味、以前の日本に似ているように感じます。他に違いはありますか?

 

「これはAFCだけではなく、FIFAもそうなのですが、テレビ画面に常に映るポジションを求められているような気がします。女子W杯を見ていると、凄いアスリート性を求められているなと感じました。

日本の場合、最終的な判定を良くすることを追求しているので、角度を求めています。

でも今年のACLを担当して思ったのは、

『飯田、動き出しが遅いぞ。画面に入ってこい。サボっているのか? それだと次に割り当てを受けられないぞ』

と言われます。判定の良し悪しとは別です。なので、ACLの主審の方が、割り当てを貰えなくなる恐怖心からバンバン走って、画面に入っていく。

ただ、これは戦術によるのではないでしょうか。たとえば、川崎フロンターレの試合で、レフェリーが画面に入っていったとします。家長(昭博)さんや大島(僚太)さんのコースに入ってしまって、選手の皆さんもファンの皆さんも『今日のレフェリー邪魔だなぁ』となりますよね。

もちろん、AFCの指導も分かります。ACLのグループリーグだと、ガムシャラにドーンと蹴ることも多い。そうなると、フライング気味に走らないと、ゴール前には入れないので、そこは合わせないといけないのかなとは思っています。『カード基準』、『強さ』、『画面に入ること』がAFCの求めていることだと感じました。」

――そういった国際試合を経験して、飯田さんは昨年最優秀主審賞を受賞されました。

 

2020年はJリーグがコロナによってストップし、これからどうなるんだろう? とモヤモヤしていました。大きな判定のエラーも出してしまい、本当に色々なことを考えました。

強豪チームの若手選手の皆さんは、強い先輩とのポジション争いに勝てずに、なかなか試合に出ることが出来ない。でも、その先輩の背中を見て、成長されて中心選手になり、今度は自分が与える側になっていきますよね。

私の上の世代のレフェリーも、凄い方々が多く、色々勉強させて貰いました。ただ、貰うだけで、自分のレフェリングに出来ていなかった。そこを整理しました。たとえば、批判は真摯に受け止めつつも、あまり気にしないなど。自分の信念のコアが固まりました。

そして2021年、一試合、一試合に臨み、結果的に受賞につながったのだと思います。ただ、受賞後のシーズンの方が大切だと思っていたのですが、今季、いくつかVARに助けられたシーンがあったので、不甲斐なさもあります」

 

――個人的に飯田さんの強みとして、自身の判定を理路整然と説明出来ることなのかなと感じています。だから、選手とのコミュニケーションも柔和にとれるし、きらなければいけない所はきれる。ご自身では、どのように批評されますか?

 

「まだまだ未熟ですので(苦笑)ただ、VARが導入されてから考えていることは、チェック中は時間がかかり、選手の皆さんも観客の皆さんもモヤモヤする部分。そのモヤモヤをなくすために、選手や観客にどのように伝えるか。表現力に近いのかもしれませんが、そこは大事にしたいとは思っています。

選手は『お客様』という訳ではないですけど、ピッチの主役ですよね。OFRで判定を変える時には、可能な限り、納得して欲しいですし、ストレスを作りたくないと考えています。

試合中であれば、怪我に繋がるようなファウルが起きないようにコミュニケーションをとっていきながらも、譲れないようなファウルや行為があれば、『強さ』を全面に出していかないといけません。そのベースとなるのは『判定力』だと思いますので、そこは今後も突き詰めていきたいです」()

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