川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】オシムの発言「肉でも魚でもない試合だった」【無料記事】川本梅花アーカイブ #イビチャ・オシム

オシムの発言「この試合は肉でも魚でもない」

2007年3月24日、この年最初のサッカー日本代表戦は、ペルー代表を相手に2-0で勝利を収めた。試合後の会見、イビチャ オシム監督は試合の印象を聞かれて「肉でも魚でもない試合だった。あまりよくない」と独特な言い回しのコメントを残した。筆者は、試合後の監督会見に出席してオシム監督に質問した。これは、その時のやり取りを含んだショートコラムである。

参考:キリンチャレンジカップ2007 ~ ALL FOR 2010 ! ~(JFA公式)

イビチャ オシムの言葉は、教訓の意味を持つ箴言として注目されていた。人々は、なぜ彼の言葉に興味を持つのか。その理由が知りたくて、ペルー代表後の監督会見に出席した。

司会者は、まずオシムに「試合の総括」を求めた。彼は試合の印象を「肉でも魚でもない」と話す。料理や食事にたとえ、試合を説明しようとしたのである。肉や魚料理は、フルコースのメインディッシュとして登場する。「肉でも魚でもない」とは、つまりメインディッシュではないという意味だ。オシムはペルー代表戦は「前菜」だったと述べる。いくらおいしくとも、人は前菜だけで満足はできない。なぜなら肉や魚といったメインディッシュのおいしさを、すでに知っているからだ。オシムの理想のサッカーが「メインディッシュ」だとすれば、この試合は「前菜」にすぎない。オシムとの質疑応答が始まり、私は最初に手を挙げて質問した。

「ペルーにチャンスらしいチャンスがなかったというが、それはペルー側に問題があったのか、それとも日本の守備がしっかりしていたからか」

すると彼は「両方だ」と答え、「いまの質問からすると、あなたはどちらのチームを応援していたのか」と聞き返された。「もちろん日本代表だ」と答えると、彼は「私はこの結果には満足していないと話したと思う」と言う。私は質問を変えて「後半のプレーが良かったというのは、具体的にどの部分か」と聞く。彼は「2-0になって、若い3人のプレーヤーを投入してからだ」と答える。

まるで禅問答だが、このやり取りは、彼が言葉の意味に対して厳格に答える人であることの表れだ。そして同時に、私が未熟な質問者だったことを示す。彼は「試合には満足していない」ということしか話していないのだ。そのことを理解してもらうべく、あらゆる方向から、いろいろな表現で語ってくる。しかし聞いている方は、質問とは別な内容を話されていると混乱してしまう。

そこで、彼の言葉を深読みせず、文字通り素直に受け取ってみる。すると受け手の方が「オシムは何を話すのか」と身構えていることに気付く。もし今度彼の言葉を耳にしたら、先入観を捨てて聞いてみると良い。そうすれば、オシム語録がよく理解できるはずだ。

川本梅花

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