川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】#酒井高徳 の影響力【無料記事】#天皇杯決勝 #ヴィッセル神戸 2○0 #鹿島アントラーズ

酒井高徳の影響力 天皇杯決勝 ヴィッセル神戸 2○0 鹿島アントラーズ

2020年1月1日の天皇杯決勝は、ヴィッセル神戸が鹿島アントラーズを2-0で下して優勝を成し遂げた。2019シーズンの神戸は、外国籍監督の招聘と外国籍選手の獲得によって期待度を増してスタートした。監督のファン マヌエル リージョは、「4-2-3-1」のシステムの考案者と言われている。リージョがリーガ2部のクルトゥラル・レオネサを1991-1992シーズン引き受けていた時に採用したのが最初だとされる。当時のリージョは、スペインの雑誌で「僕が意図したのは、ピッチの高いところでプレスをかけてボールを奪うことでした」と語っていた。当然、日本のクラブで指揮をする際も、そうしたサッカー哲学を背景にした指導をするのかと思った。時代が流れてシステムは変わっても、哲学は普遍だろうと思っていた。しかし、実際の神戸でのリージョは、スペインと日本のサッカーや選手の質の違いに戸惑ったようだった。

海外から呼び寄せた有名選手には、確かに見るべきものがあった。技術から戦術理解まで、Jリーグでプレーしている選手の手本となる選手たちだった。しかし、試合でのプレーを見ても、日本人の選手が相当に萎縮というか、遠慮しているのが分かった。おそらく、トレーニングでも遠慮しているのだろう。そうした中で、酒井高徳がドイツから日本に帰ってきた。

酒井はすぐに、日本人選手たちが外国籍選手に対し、気後れしていると分かったとと言う。そのため酒井は、自分があえて外国籍選手に、トレーニングの中でコーチングをする。「前に行け」「戻れ」「追え」。そうすることで、日本人選手たちは「自分たちも指示をしていいんだ」と割り切れるようになっていった。あるいは、トレーニングでの対人プレーに関しても、遠慮しないでガツガツと身体をぶつけていく。意識改革と一言で片付けられないほど、酒井の行いは、日本人選手たちに大きな勇気を与えた。

「3-4-3」のシステムの中で、ウイングバック(WB)の働きがこのシステムの優位性を担保していると言っていいほど、重要なポジションになっている。最終ラインを3人で守る場合、特に両ストッパーの斜め後ろのスペースが狙われる。WBの背後にあたる場所は、WBが攻撃参加した時には危険なスペースになってしまう。したがって、WBは、上下動の激しい運動が求められる。神戸の「3-4-3」のシステムを支えて力の1つには、WBの酒井の働きが大きいと言える。いや、間違いなく酒井の存在がシステムの安定感をもたらしている。

通常、3バックは守備の際に5バックになりがちである。天皇杯決勝でも、60分を過ぎてからは5バックで応戦している。しかし、下がって5バックになって守備をしたのは、神戸の戦術的な変更があったからだ。確かに、神戸の選手の運動量が落ちたことはあるは、それまでの神戸は、酒井が高い位置を取って攻撃参加することで、鹿島の選手を押し込んで、右サイドからの攻撃を防いでいた。たとえ、裏にボールを出されても、戻る速度も速くて、十分にケアされていた。

酒井の守備力の高さを知れるのは、64分過ぎのプレーである。ペナルティエリアでボールを奪った土居聖真がゴールエリアにドリブルで入ろうとした瞬間、背後からボールを奪ってクリアしたのが酒井だった。ボールの奪い方がまずかったならば、PKを与えても仕方がないギリギリのところで、ボールを奪う能力は見るべきものがあった。攻撃においても、タッチラインに張ってボールをキープして、味方の選手をオーバーラップさせて裏にボールを出すプレーや、自らがオーバーラップしてクロスを上げるプレーなど、チャンスメイクに徹底した働きは評価されて当然である。

酒井高徳は、日本人選手の意識改革と、教科書のようなWBの働きによって、ヴィッセル神戸をまだ見ぬ景色に連れていく。それが、神戸が勝利を収めた天皇杯決勝戦であった。

川本梅花

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