川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】#ヴィッセル神戸 試合の流れの中の出来事 −システム変更(鹿島)と戦術変更(神戸)−【無料記事】 #天皇杯決勝 ヴィッセル神戸 2○0 #鹿島アントラーズ

試合の流れの中の出来事 −システム変更(鹿島)と戦術変更(神戸)−

       天皇杯決勝 ヴィッセル神戸 2○0 鹿島アントラーズ

2020年1月1日に天皇杯の決勝戦が行われました。ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズが新国立競技場で戦います。創設25年目にして初タイトルを狙う神戸。一方で、六度目の栄杯を目指す鹿島。57,597人が集まったスタジアム。このコラムでは、試合の流れの中の出来事を通して、鹿島のシステム変更と神戸の戦術変更に関して話したいと思います。まず、お互いのシステムを組み合わせてみましょう。

 

試合の流れの中の出来事 −システム変更(鹿島)と戦術変更(神戸)−

神戸は「3-4-3」の3バックシステムです。鹿島は「4-4-2」の4バックシステムで中盤がボックス型です。2トップは。伊藤翔から少し下り目にセルジーニョが配置されています。神戸は、3トップの両ウイングがポジションチェンジをして、右にルーカス ポドルスキーで左に古橋亨悟になります。システムですが、鹿島は、後半から土居聖真と山本脩斗を投入して以後、3バックシステムに変えて「ミラーゲーム」を仕掛けてきます。神戸は、対抗手段としてシステムをいじらずに選手交代と戦術の変更で臨んできます。

この試合、試合開始からの5分間と後半60分過ぎからは鹿島がゲームを支配していました。鹿島は、前半から前線の選手が相手ディフェンダー(DF)に積極的にプレスにいきます。それによって神戸は、なかなか前にボールを運べません。鹿島の戦い方として、前半早々に相手の勢いを削いで早い時間帯で先制してゲームを自分たちの流れにしようと考えたんだと思います。ここで神戸は、窮屈さを嫌ってロングボールを蹴れば、1トップの藤本憲明に2人のセンターバック(CB)がサイドイッチして守備ができるので、セカンドボールを鹿島が拾える確率が高くなります。しかし、前線からの鹿島のプレスに耐えて、神戸がショートパスでボールを繋ぐことで、ボール保持率を高めることに成功します。

後半、鹿島が3バックにして、後方からの縦パスを利用して、右ストッパーのダンクレーの後ろのスペースを狙うようになります。あるいは、左サイドから大きなボールを左ストッパーのフェルマーレンの背後に蹴り出します。3バックシステムの弱点でもあるディフェンダーの裏のスペース、特に両ストッパーの背後のスペースを突いてきます。60分過ぎに鹿島のDFがドリブルをして前進してきます。神戸の選手は、誰もプレッシャーをかけてきません。そこで、縦パスがダンクレーの背後に出されます。

伊藤がダンクレーに身体をぶつけてから出されたボールに走っていきます。一度あえてダンクレーに身体をぶつけることで、オフサイドギリギリで抜け出すことができました。実際に、フェルマーレンは、伊藤がオフィサイドだと思って手を上げて静止しているのです。フリーでボールに追いついた伊藤は、エンドライン近くまでドリブルしてクロスを上げます。そのボールにレオ シルバがダイレクトシュートを試みますが、ボールは大きくゴールを外れます。このような展開が何度かありました。ですから、鹿島にも同点になるチャンスはあったのです。しかし、クロスの精度が低くて得点まで至らなかったのです。いつものようにプレーできないプレッシャーが、試合の中で選手にあったのかと思われます。それは、チームの中でのことが原因なのか、神戸の選手の圧力なのか、ここではわからないのですが。

神戸は、後半60分からラインを下げて守備を固めてきます。1トップに藤本を残して、戦術的に引いて守るという方針があったのでしょうが、というよりも、神戸の選手の足が止まったと言ったほうが的確かもしれません。鹿島が3バックの背後を狙ってくるので、神戸は1-4-5にして5バックで防御しようとします。ボールを跳ね返しても、セカンドボールを鹿島に拾われてしまいます。前半は、ボールを繋ぐことで鹿島の勢いを削いできたのですが、後半60分過ぎから安全策を取るようになりました。

これも後半の60分過ぎからですが、鹿島は、イニエスタがボールを持つと、シルバなどイニエスタの近くにいる選手が3人で取り囲んでファールをしても制御してきます。それまでは、神戸の選手の誰かがフォローに行っていたのですが、イニエスタを孤立させてしまいます。

点数だけを見れば2-0で神戸の完勝のように映りますが、精度の高いクロスが続いていれば、少なくとも同点になれるチャンスはあった、と私は思います。個の力の差とか解体前の組織だったとか、理由はそれぞれあるのでしょうか、同点までは追いつく可能性はあったと理解します。あと一歩のところで追いつけなかったのは、神戸の強力な3バックと両ウイングバックの働きのためでしょう。

川本梅花

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