川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】やりたいサッカーとシステムの齟齬…それ以上に問題なのは?【無料記事】J1第10節 #北海道コンサドーレ札幌 2●1 #ヴィッセル神戸 #consadole #visselkobe

システムの齟齬、それ以上に根が深い問題とは

目次
「4-2-3-1」の天敵「3-4-2-1」
中途半端な吉田孝行監督の「4-4-2」
やりたいサッカーとシステムの齟齬、それ以上に問題なのは?

2019明治安田生命J1リーグ第10節
北海道コンサドーレ札幌 2●1 ヴィッセル神戸
https://www.vissel-kobe.co.jp/match/game/?gid=20190100010120190504

5月4日の土曜日、明治安田生命J1リーグ第10節、北海道コンサドーレ札幌対ヴィッセル神戸が、札幌ドームで行われた。札幌は3連敗を喫したものの、3連勝中。サンフレッチェ広島、浦和レッズを率いたミハイロ ペトロヴィッチ監督が指揮を執る。対する神戸は4連敗中。4月17日にフアン マヌエル リージョ監督の意向で契約解除となり、後任として吉田孝行監督が指揮を執っている。

札幌のシステムは「3-4-2-1」で、1トップに好調の鈴木武蔵を配置する。神戸は「4-4-2」で中盤はボックス型を作る。2トップはダビド ビジャと田中順也。両チームのシステムを組み合わせた図は、以下の通りだ。

「4-2-3-1」の天敵「3-4-2-1」

神戸の吉田新監督は当初、リージョ前監督が採用した「4-2-3-1」のシステムを引き継いできた。しかし、ルーカス ポドルスキとアンドレス イニエスタの欠場により、札幌戦では「4-4-2」のボックス型、2トップを選択。リージョ前監督との決別にも見えるシステム変更だった。

ここでリージョ前監督が、なぜ、日本でうまく行かなかったのかを述べよう。

リージョ前監督が採用した「4-2-3-1」は、世界中のクラブで採用されている。実は、このシステムを最初に考案したのがリージョ前監督だと言われている。1991-92シーズンにスペイン2部リーグ所属のクルトゥラル・レオネサを率いていた時のことだった。彼はスペインの雑誌に次のように語っている。

僕が意図したのは、ピッチの高いところでプレスを掛けて、ボールを奪うことだった。(中略)これなら4人のFWを使い、左右を最も対称に保ちながらプレーできる。それにFWを高い位置に置くことで、中盤の位置も高く保ち、ディフェンスラインも高く設定できるというのも、大きなアドバンテージの1つだった。つまり、ピッチ上の全員が恩恵を受けられるようになるんだ。とはいえ、それぞれのポジションにふさわしい選手を選ばなければならない。とにかく運動量が求められるし、ボールを奪った後は、きちんとしたプレーもできないとならない。プレスを掛けるのは、相手からボールを奪い、きちんとしたプレーをするためだ。プレスを掛けることが最大の目的じゃないんだ。

リージョ前監督は1992-93シーズンから1995-1996シーズンまでUDサラマンカ(スペイン2部、最後のシーズンは1部)で指揮。ここでも「4-2-3-1」を採用したため「新たな時代に対応したプレッシングのシステム」と認識、一気にリーガで広がりを見せ、欧州の多くのクラブが採用することになった。

「4-2-3-1」が、脚光を浴びた理由ははっきりしている。相手が4バックの場合、サイドバック(SB)をどのようにケアするのかが問題になる。しかし「4-2-[3]-1」ならば、中盤の[3]の両サイドハーフ(SH)が、高い位置で相手SBをケアできる。また、1トップとトップ下がセンターバック(CB)にプレッシャーを掛けることで、ビルドアップのパスコースを遮ることが可能だ。攻撃面でも、高い位置でSHがボールを奪えば、ショートカウンターの起点になる。このように「4-2-3-1」は当時、画期的なシステムとして歓迎されたのだ。

だから筆者は、リージョ氏が日本に来ると聞いた時、とても驚いたし、うれしかった。しかし同時に「4-2-3-1」のシステムを採用することで、“難しい戦いになる”との予感もあった。なぜなら日本には「3-4-2-1」を採用するクラブが多いからだ。これは現札幌監督ペドロビッチ氏の影響かもしれないが、ともかく「3-4-2-1」は「4-2-3-1」の天敵だと言える。

「4-[2]-3-1」には、対処の難しいエリアがある。[2]のエリア、両SBと両SHの間、2人のMFの横が、それに当たる。SHが高い位置にいる利点は、相手SBをケアできることだが、こうなると必然的に、SHとSBの距離は広がってしまう。このエリアを使うのが、「3-4-[2]-1」の[2]だ。シャドーストライカーはエアポケットとなった“SHとSBの間”を突き、相手を混乱させる。この現象はイングランド・プレミアリーグでも見られた。アントニオ コンテ前監督が率いたチェルシーは、アーセン ベンゲル前監督率いる「4-2-3-1」のアーセナルをたたきのめした。

日本におけるリージョ監督最後の試合は、4月14日に行われたJ1第7節・サンフレッチェ広島戦だった。試合は、4-2で広島の勝利。広島のシステムは「3-4-[2]-1」だった。[2]に当たる渡大生が2得点。リージョ前監督は結局、自らが製作した「4-2-3-1」の持つ負の部分を克服できないまま、日本を去ることになった。

さて、吉田監督の採用した「4-4-2」で、神戸は再生できるのだろうか?

中途半端な吉田孝行監督の「4-4-2」

「4-4-2」というフォーメーションには、DFとMFを4人ずつ2列に並べることで、相手のスペースを消せる利点がある。これを利用すれば、引いて守るチームがカウンター攻撃に出る上で、優れたシステムとなる。また、同じ「4-4-2」でも、前線の選手がハイプレスを行うシステムとして運用することが可能だ。これは、アリゴ サッキ監督時代のACミランを見れば分かる。

さて吉田監督は特別、前線の選手に激しいプレスを要求しているように見えない。かと言って、引いて守ってカウンターを狙っているわけでもない。ボールを保持しながら、敵陣で攻撃をする方法を採用している。神戸はJ1第9節終了時点でリーグワースト3位の総失点数15。おそらく吉田監督の意図は、失点を減らすため、「4-4-2」というフォーメーションを選択したのだろう。

しかし「4-4-2」を採用する場合、サッキのようなハイプレスを行うか、あるいはディエゴ シメオネ監督率いるアトレティコ・マドリーのように自陣で引いて守るか、ここを徹底させないと、うまくは機能しない。

やりたいサッカーとシステムの齟齬、それ以上に問題なのは?

やりたいサッカーとシステムが噛(か)み合ってない。これも神戸の問題の1つではあるが、やはり最大の問題は、選手自身にある。選手個々に抱えている課題が異なるため、どのように表現すれば伝わるのか迷ってしまうが……。総じてプレーに対し「淡泊」という印象がぬぐえない。例えば札幌戦の75分、FW鈴木武蔵に逆転のゴールを決められた場面がそうだ。

札幌MF宮澤裕樹がエンドラインまでボールを運んだ時、鈴木は神戸DFダンクレーの背後にいる。宮澤はペナルティエリア内に進入したものの直接シュート、あるいはクロスを上げることはかなわず、右サイドを駆け上がってきたMF早坂良太にボールを託す。この後、早坂がクロスを上げる。この時、鈴木は一度後ろに下がってから、ダンクレーの前に入り込み、早坂のクロスをゴールに叩き込む。

ここで残念だと感じたのは、宮澤から早坂にパスが出た瞬間、近くにいたMF郷家友太が歩いて早坂に向かっていたことだ。この場面、郷家が全力疾走しても早坂のクロスを防げなかったかもしれない。しかし、集中してプレーしていれば、あの選択はなかっただろう。

このようなプレーに対して、吉田監督は、どのように対処していくのか。そもそも、こうしたプレーが出てしまったことに、神戸の抱える問題は、とても根が深いように思える。

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