【無料公開】知事選とAKB総選挙は何も変わらない もしも広瀬一郎が静岡県知事になっていたら<4/4>
■「これだけの失敗、あなたにできますか?」
──そろそろまとめに入ります。今回の知事選出馬に関して、広瀬さんの「しでかしたことに対して、反省はするけど後悔はない」という総括は、非常に清々しいものを感じました。今回の経験を次の若い世代に伝えるとするなら、何を一番に伝えたいですか?
広瀬 「やらなきゃわからない」ということかな。大学生によく言うのは「自分によく合っている仕事とか、探そうとするな」と。やらなきゃわからない、それに尽きる。
──ですよね。知ったつもりでいたり、恐れていたりするだけで何もしなければ、何も始まらない。まったくその通りだと思います
広瀬 サッカーの世界で「パスコースが無い」とか騒いでいるやつがいるよね。でも「お前が動け」って話じゃない? 自分が動くことによって事態や条件が変わる。「こんなことをやったら、こんな問題が起こりますね」とか言って、新しいことをやらない人が多いけどさ、世界の9割くらいは、やってみないとわからない。そういうことでしょ?
──その意味で広瀬さんは、これまでいろんなことにチャレンジしてきましたよね。2002年ワールドカップの招致活動、スポーツナビの立ち上げ、スポーツ基本法についてもそうだし、今回の知事選もそう。いずれのチャレンジも、非常に野心的かつ歴史的な意義があったんですけど、あと一歩のところで当初の目的としていたところには届かず、非常に悔しい想いをしていました。それなのになぜ、ここまでチャレンジできるんでしょうか?
広瀬 たとえば「広瀬さんの経歴って、華麗ですね」って言う人たちがいるわけ。いや、それは違うでしょ? 俺が電通で成功していたら、ここにいないでしょう? スポーツナビで成功していたら、ここにいないでしょ?
──2002年のワールドカップが日本単独開催になっていたら、こうして気軽に取材できないくらいのポジションにいらしたでしょうね。というか、静岡県知事になっていても、当分の間お会いできなかったかも(笑)。
広瀬 要するに何が言いたいかというと、僕の人生は失敗の山なわけ。そうやって前のめりでやって、ちゃんと良い失敗をしていたから次の話が来る。失敗の総量が半端でない(笑)。「これだけの失敗、あなたにできますか?」って話だよ。
──日本は、チャレンジして失敗した人には厳しい社会です。でも広瀬さんの場合、これだけ失敗しても、さらに魅力的なオファーが舞い込んでくるから、純粋にすごいと思います。
広瀬 だから、今回の選挙の話が来た時も「これは勝ったな」と思ったわけ。選挙に勝った、という意味ではなくて、人生においてね。金はないし、今はプータローだけど、また新たなオファーがあるだろうなと。僕は東大を受験したこと以外、自分で(人生を)選んだ記憶があまりないんだよね。電通に入社したこと、2002年の招致活動に関わったこと、スポナビを立ち上げたこと、すべてそう。ただし、頼まれて断ったことがない。
──なるほど(笑)。考えてみれば今回の知事選も、確かに選挙活動は大変だったと思いますけど、1億円規模のお金と何百人というスタッフを自民党が用意してくれて、しかも落選したとはいえ34万人という県民が「広瀬一郎」と名前を書いたわけですからね。こんな経験、やりたくても普通できないですよ(笑)。
広瀬 でしょ? だからさ、ほんとに怖いものがなくなっちゃったのよ(笑)。
──知事選出馬の後は、どんなチャレンジをされるのか、本当に楽しみです。今日は貴重なお話、ありがとうございました。
●広瀬一郎(ひろせ・いちろう)
1955年9月16日生まれ。静岡県三島市出身。
東京大学法学部卒業後、電通にてワールドカップやトヨタカップなどスポーツイベントを多数プロデュース。1999年から4年間、Jリーグ経営諮問委員会の会員を務める。
2000年に株式会社スポーツ・ナビゲーションを設立。2002年に退社し、経済産業省のシンクタンクに入る。
2004年にはスポーツ総合研究所を設立して所長に就任。その後、多摩大学教授を経て2013年に静岡県知事選に立候補。あえなく落選となるも34万票を獲得した。
2017年5月2日、死去。
<この稿、了>