ドラガン・ストイコビッチに人生を変えられた男の物語 小柳津千早(セルビア語通訳・コーディネーター)<1/3>
書籍の執筆がひと段落し、今週から現場取材を再開することにした。水曜日は甲府にて天皇杯取材(ラウンド16のヴァンフォーレ甲府vsヴィッセル神戸)、そして土曜日は国立競技場にて、名古屋グランパスvsアルビレックス新潟を取材する予定だ。
この土曜日の国立の試合、ホームの名古屋は素敵なゲストを用意している。選手としても監督としてもレジェンドとして知られる、「ピクシー」ことドラガン・ストイコビッチさんである(参照)。2001年に日本で現役生活を終えて、すでに22年。今の若いサッカーファンに「イニエスタよりもインパクトがあった」と語っても、おそらくは信じてもらえないことだろう。
確かに、来日当初の注目度は、イニエスタのほうがあったのは間違いない。1994年にピクシーの名古屋への加入は、実にひっそりとしたものであった。しかし翌95年、アーセン・ベンゲルが名古屋の監督に就任すると、ピクシーは全盛期のポテンシャルを取り戻し、Jリーグきっての外国籍選手として脚光を浴びる。また当時、異能集団として知られたユーゴスラビア代表の主将で10番として、海外サッカーファンからのリスペクトを集める存在であった。
そんな現役時代のピクシーの影響を受けて、彼の故国であるユーゴスラビアを訪ね、現地のサッカーを観戦する若者(男女問わず)はあとを絶たなかった。かくいう私もそのひとりだが、私とは比べものにならないくらい「ドラガン・ストイコビッチに人生を変えられた男」が、今回のゲストである。
小柳津千早(おやいず・ちはや)さんは、1979年生まれで愛知県出身。ピクシーの影響を受けてユーゴスラビアにハマり、大学卒業後の2003年にセルビア・モンテネグロ(当時)の首都・ベオグラードに語学留学する。2008年に帰国後、スポーツナビを経て2011年から在日本セルビア大使館の職員となり、21年に退職後は家族と共にセルビアに移住。現在は、セルビア語の通訳・コーディネーターとして活躍している。
また小柳津さんは、「My Serbia」というサイトや「セルビア暮らしのオヤ」というYouTubeチャンネルで、積極的にセルビアの文化や暮らしの情報を発信している。今回は、そんな彼に多大な影響を与えたピクシーの来日を記念して、セルビアに関するさまざまなお話を伺った。(2023年7月21日、オンラインにて取材)
【編集部より】Zoomのキャプチャとクレジットが記載されていない写真は、すべて小柳津千早様にご提供いただきました。
■なでしこジャパンのセルビア遠征で「リエゾン」に
──今日はよろしくお願いします。まず、今の肩書きを教えてください。
小柳津 今の肩書は、通訳・コーディネーターですね。ただ、定期的にお仕事のオファーをいただいているわけではないので、飛び込みの依頼が来たら引き受けるという感じです。最近でいうとNHKの旅番組。ヨーロッパの温泉をめぐる内容でした。
──それ、見ました! 英国人のカップルが東欧の秘湯をめぐる内容でしたよね(参照)。
小柳津 そうです! この時は通訳とコーディネーター両方の仕事で、しかも旅をしているのは英国人でしたから、セルビア語だけでなく英語も求められているんですよね。英語は専門ではないし、しかも向こうの発音ってぜんぜん聞き取れなくて(苦笑)。あとはセルビアの史跡を訪れるドキュメンタリー番組も担当しました。
──通訳やコーディネーターというと、さまざまなジャンルについて扱うと思うんですが、スポーツとかサッカーの仕事というと、いかがでしょうか?
小柳津 去年の6月ですかね。なでしこジャパンがセルビアとアウェイ戦をやっているんですよ(参照)。その前に合宿をやっているんですが、場所がセルビアサッカー協会のスポーツセンターだったんですよね。
──行ったことあります! ノビサドの近くでしたっけ?
小柳津 ベオグラードとノビサドの中間地点くらいの場所ですね。Jヴィレッジみたいな施設で、ピッチが何面もあって、宿泊施設をはじめいろいろ整っているんです。各年代の合宿や強化試合も、そこでやっているんですけど、僕はそこで「リエゾン」の仕事を依頼されました。
──リエゾンというのは、代表チームのリクエストに、いろいろ応えるような仕事ですね?
小柳津 そうです。基本的に日本サイドに付きっきりで、スタッフの方からトレーニングに関して「ゴールをいくつ準備してほしい」とか「時間を変更してほしい」とか、食事について「もう少しライスは固めに」とか「ジュースは100%の果汁で」とか。そういうリクエストをセルビア側に伝えるのが、基本的な僕の役割でした。
あと、合宿中にGKの選手(池田咲紀子)が怪我で離脱してしまったんですよ。その時も病院の手配ですとか帰国の手続きとか、そういったことのお手伝いもさせていただきました。日本代表に帯同しながら、お仕事をさせていただいたというのは、本当に貴重な経験でしたね。
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