中野吉之伴フッスバルラボ

【現地取材】ファンの愛を取り戻したドイツ。5年前ガラガラだったスタジアムが熱気に包まれた夜

▼ 当たり前ではない満員の代表戦

そこにある風景に僕はしばし酔いしれていた。

ドルトムントで開催されたドイツ代表対イタリア代表の試合だ。UEFAネーションズリーグ決勝トーナメントセカンドレグという性質で、勝ち残れば準決勝進出となる。たとえW杯やユーロほどのビックトーナメントではないとしても、タイトルどころかベスト4からも遠ざかっているドイツにとっては久しぶりのチャンス。

それにしてもすごい歓声ですごい熱量だ。試合前のスタジアム周りにもワクワク感が漂っている。「決勝トーナメントだから」「ライバルであるイタリアとの対戦だから」というのもあるだろうが、ドイツ代表戦への熱気が冷めきっていた時期を知っているだけに、この盛り上がりには驚きさえする。

ちょうど5年前、同じくドルトムントでドイツ代表対アルゼンチン代表というすごいカードがあったのに、スタジアムの半分もお客さんが入らなかった。4万人前後は入ったけど、7万人弱収容の大型スタジアムからするとがらがら。寂しさばかりが漂っていた。

2019年、スタジアム上部はほぼガラガラというドイツ対アルゼンチン。

「大会で好成績を残せていないから」だけではなく、ファンはドイツ代表にアイデンティティを持てなくなっていたのが大きな問題だった。一つ一つは大きくなくても、些細な問題がたくさんつもりつづけていた。

それ以降ドイツサッカー協会は代表戦を2-30000人収容のこじんまりとしたスタジアムで開催し、せめて満員感のある雰囲気を作ろうとした。それでも熱気ある代表戦があったといわれたらほとんどない。勝っても負けても冷めている。もがいてももがいても前に進めない。光があると信じて進むけど、その先にはまた新しい暗闇があったりした。

そんなドイツ代表が数多くのファンから心からの声援を受けている。この日、64762人満員のスタジアムには確かな一体感があった。やっとまた光のあたるところに戻ってきたのだ。母国開催のヨーロッパ選手権には開催国ならではのお祭り感がブーストとして合ったけど、それが終わったあとでも熱が高まっている。

ファンも一緒に大声で国歌を歌うスタジアム。そして起こったあふれんばかりの拍手にグッときた。僕でさえそうなのだ。ドイツサッカー界をあらゆるところで支えていた人たちは思うところが多くあることだろう。試合前だけでおなかいっぱいなほど。

そして試合にも見どころがたくさんあった。

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