【育成論】移籍とは、チームや指導者が子どもたちを選ぶんじゃない。子どもたちがチームや指導者を選ぶんだ

※ フットボリスタWEBより転載
▼ 移籍って何のためにするんだろう?
ジュニア期における移籍について、僕が暮らすドイツの例を参考に考察してみたいと思った。
ドイツでは、ジュニア期における移籍は頻繁だとよく言われている。とはいえ、やぶれかぶれにどんどんクラブを変える子はいない。みんなちゃんと自分なりに、自分がどうしたいかを考えた上で行動をする。僕の周囲を見ていても、どこのどんなクラブでプレーすべきかを考えている子供が少なくないとわかる事例がいくつもある。
拙著『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』の中で、次のような話を紹介している。
ある日息子らを連れて近くのグラウンドでボールを蹴っていたら、近所の子が友達とやって来て一緒にサッカーをした時の話だ。
その子はSCフライブルクのジュニアチームに招待されたこともあるというだけあって、なかなかにうまい。しばらくサッカーを楽しんだ後、休憩中に話をしている時に、所属クラブの話になった。
地元でも強豪と呼ばれるAというクラブの話になった時に、その子がこんなふうに話していた。
「そこはやめたほうがいいよ。コーチが良くないから。サッカーを教えることができないんだ」
子供たちにとって大事なのは、チームのネームバリューではないはず。そこでどんなサッカーができるのか、どんなふうに自分がなっていけるのかを実感できる場所かどうかだ。
例えば、僕が現在指導をしているフライブルガーFC U-12で来季に向けて新加入選手を募集していた。U-11チームは2学年合わせて11人いて、U-12に上がってくるのは5人ほど。トレーニングに何度かトライアルで参加してもらい、プレー面だけではなく他の子供たちとのコミュニケーション、ミスをした時の態度、こちらの問いかけに対する反応などを広範的にチェックさせてもらい、U-12、U-13指導者の総意で最終的に誰に声をかけるかを決めていく。
フライブルガーFCは元ブンデスリーガクラブというだけではなく、現在はブンデスリーガのSCフライブルクと育成提携を結んで選手の育成に力を注いでいる。各学年で所属しているリーグも1部から3部と、この地域では間違いなくトップレベル。
ちなみにSCフライブルク出身選手の中で、一番の出世頭がドイツ代表DFマティアス・ギンターだろう。SCフライブルクの下部組織に11歳で加入し、2012年、2013年には2年連続でフリッツ・バルター・メダル(ドイツの年代別若手表彰)の金賞を受賞している。
でも、だから子供たちが無条件でうちに来たいと思うのかというとそんなことはない。彼らはトライアルのトレーニングで指導者を観察しているし、チームメイトをチェックしている。
ここで僕は本当にサッカーを楽しめるのかな?
ここに来た方がサッカーを好きになれるのかな?
ここの指導者は僕のことをちゃんと見てくれるのかな?
こちらから声をかけた選手がみんな来てくれるなんてことはないのだ。週に3回練習があって、練習時間に集中して取り組むことがプラスに働く子供もいれば、それが負担になる子だっている。
地元クラブで小さい時から一緒にやってきた仲間とのびのびとストレスなくサッカーを楽しむことができる環境というのはかけがえない。それを奪う権利は、僕ら大人にはないんだ。
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