中野吉之伴フッスバルラボ

平川聖剛「チーム内で上の序列にいるかというとそういうわけではない…でも1年後2年後はわからない…」

平川「それが現状だと思いますよね。あと、『自主練せん奴はやる気ないやつ』みたいな空気もありますよね。チーム練習でガッツリやってる方が本当は大事なのになって思うですよね。チーム練習を全力でやってるから自主練習分の余力はないって方がいいはずなのに」

中野「そう。だから、自主練習でやっている感覚をチーム練習でもできるようにならないといけないんだよね。チーム練習だけで個々の特徴も出てきて、長所も伸びるという風にしていくのが指導者に問われているところなんだと思うよ。それか指導者サイドにそれができないんだったら、選手が自分たちでトレーニングメニュー考えてという形を作った方がいいと思うんだよね」

平川「僕たち休みなかったですもん。あ、月曜日は休みだったかな。自分の試合ないのに見に来たりとか」

中野「その辺でいうと、こっちの子は環境的に恵まれている分、甘えもあるよね。それはよくないところでもある」

平川「うちのU16の子たちは球拾いとかゴール運びとかあんまりやらないですよね」

中野「そういう意味での自主性はまだまだ足らない」

平川「大事なところですよね」

中野「いい意味での挫折を味わってないというのはあるのかな。決意ができていない。がむしゃらにやらなきゃっていうところをもっと引き出してあげたいね。プロクラブのアカデミーに入るほどではないけど、地元ではそれぞれエースとしてやってきた選手たちだから。まだまだ上にいけるチャンスもあるし、上にいけると思っている。でも、うちの6部のトップチームにもこの中の何人が残れるかっていったら、やっぱり多くて数人なんだよね。さらにその上のステージにいける選手となると確率はさらに低くなる」

平川「みんなもっと上に行きたいんですか?」

中野「その思いはみんな持っていると思うよ。選抜選手の子らはSCフライブルクのU17から声かからないかなとかは願っているだろうね。でも、誰がどこまでやれるのか、残れるのかは本当にわからない。SCフライブルクU15でやっていた子が前所属チームにいて。その頃はU19だったけど他を認めようとしないんだ。自分が正しい。自分が一番。だから、いつまでも同じミスをする。その子がプレーしているいまのチームは9部だよ。そこでレギュラーになれていない」

平川「そういうのは日本でもありますよね。かつてのエースみたいな選手」

中野「プレーインテリジェンスとか態度とか立ち振る舞いとか。そういうのもすごく大事なんだよね」

平川「そういうのすごく見たいんですよね。うちのチームでいうとニコは真面目で、話を真剣に聞いてくれて、どんなときでも全力でプレーする。彼はいまチーム内で上の序列にいるかというとそういうわけではないと思うんですね。でも、彼がこのままあの感じでやりつづけていけば1年後2年後はわからないなと思って。だから、そういうことまで考えると、長く見たいし、長く見ないとなって」

中野「正直、他の選手の差ってこの半年で見ても縮まっていると思うんだ。夏頃のニコはボールを失うことが多かった。真面目だけど判断スピードが追い付かないとか、体が大きいわけではないからフィジカルで押されるなとかってあったけど、最近はパスの精度も高くなってきた」

平川「今日は室内練習だったじゃないですか。人数が少なかったから、ずっと3対3のミニゲームやりましたよね? みんなの様子を見ていると、テクニックで相手を交わして持ち上がるとみんな沸くんですよね。でも、ニコはそういうのが得意じゃないからやろうとしてもうまくいかない。まわりからちょっとからかわれる声があって、それにムッとして言い返そうとしたんだけど、そこで言わないでガマンして切り替えて次のプレーに移っていくところは今後が楽しみだなって」

中野「口には出さないけど、すごい負けず嫌い。えらいなと思うのは、言葉じゃなくてプレーで示すんだよね。そのちょっとからかわれたくだりの後で、すごくいいプレーで点とかを取って『どうだ、見たか!』というのをみんなに示す。そうしたところをすごくリスペクトするよ」

平川「すごいですよ。僕だったらそこで気持ち切れちゃったり、起こっちゃったりしますもん」

中野「オレいまでも一緒にプレーしているとき、そうなっちゃうことあるもの(笑)」

平川「そういう余計な一言うまい才能ある奴いますよね(笑)」

中野「難しい年ごろの難しいタイプの子どもたちだけどさ、だからこそ大化けする瞬間に立ち会える楽しさっていうのもあるんだよね。今日の練習なんかだと、これまであまり自分を出さなかったノアが結構ガツガツ行って、結構気持ちを出したプレーをしていたでしょ?」

平川「そういえば。いま言われて確かにそうだと思いました」

中野「まだまだ変われるんだよ。彼らの成長をこっちの物差しで図っちゃダメなんだ。この前U17監督のルカを含めてコーチ会議したでしょ。あのときに『来季誰を残すか?』って話をしたけど、正直それが答えではないんだ。現時点での線引きでしかない。まだまだわからない。半年、いや2〜3か月で予想以上の成長をする選手はいるんだよ。だから、その『ひょっとして』という見方は必ず持っていないといけないし、サポートもし続けてあげないとのね。選手によっては来季うちでプレー続けることができなくなるとしても、移籍先のチームでエースとしてバンバン活躍できるように取り組ませてあげたいしね。サッカー、いつまでも好きでいてほしいよ」

平川「こっちは移籍があるのがいいなって思ってましたけど、出ていかなきゃいけないっていうつらさもあるんですよね」

中野「そうだね。でも、出られないってわかっていてそれでも残って練習だけするっていうのはもっとつらいよね。来季もっとうまい選手がうちに来て、立場がさらに難しくなる選手だっている」

平川「それでベンチにも入れないままやるのか。それとも新天地を求めるのか」

中野「自分の全力が出せる場って選手にとってすごく大事だよ」

平川「間違いないですね。サッカーで自分が出せる場」

中野「ドイツ来て最初に関わったクラブがうちだったわけじゃない? 最初がここだったというのをどう感じているの?」

平川「え? なんだろう?」

中野「比較はまだできないわけでしょ。このチームでやってきた2か月間で得たものとか、感情的なものとか」

平川「感情的なところでいうと愛着がやっぱり出てきて。一緒にいたいなって。でも、2月からケルンに行くって決めているし、それはできないから、だから、最低限できることをしないとって思っています。将来、ケルンでもっとがんばって、こっち戻ってきたときにみんなに『こんなことやってるんだよ』っていうのを言えるようになりたいなぁって思っています。最初の印象は…正直悪かったですよ()

中野「ハハハハハハ」

平川「こいつら、まじかって。いや悪いい方ですけど、バケモノか、と(苦笑)。こんな奴いるのかという感じでしたから。僕がはじめてベンチ入りした試合で、早く試合に出たいからって中野さんの前でアップを始めようとする選手がいたり。最初はプレーの悪いところばかり見てしまっていたけど、だからこそ、いまは長い目で見てどんなふうに成長するんだろうっていうのを見たいし、成長させてあげたいなっていう気持ちがあります。自分が足りないなっていうのを、彼らはすごく気づかせてくれましたね。かなり具体的に。

確かに足らないし、『あ、オレ全然できてない』って思わされている一方で、僕がグラウンドに行くと走って抱きついてくれたりとか。そういうのがうれしくて。正直言うとかわいがってもらえるなと思いますね。ありがたいです。実は昨日兄と久しぶりに話して、『いまこんな感じでやってるんだ。でも、全然しゃべれなくて、練習をさせてもらう時は、毎回プレゼン準備してやっているみたいな感じなんだよね』というのを言ったら、『オレが選手だったらこいつ何って思うだろうな』って言われて。僕も『そうだよな』って思って。

でも、彼らは気に入って触れ合ってくれるんですね。『ドイツ語で自分の言いたいこと言えんというのはストレスやろ。オレなら耐えられんな』って言われて、『オレ、そういうことを今してるんだなぁ』ってちょっと思いましたね。中野さんの最初ってそういうのありました?」

 中野「最初は…オレ一人で監督やっていたしね。C級ライセンス(現在のB級)取ったときに同期が誘ってくれたのね。彼がC1(U15ファーストチーム)監督で、オレがC2(C15セカンドチーム)の監督ということで」

平川「それ来て何年目ですか?」

中野「3年目の終わりくらいだね。ドイツでチームを持つのは初めてだから、すごい緊張してワクワクして初練習に行くじゃない。選手3人だったからね(笑)」

平川「まじっすか?? 考えられない」

中野「登録人数はもっといたんだけど、ほとんど試合しか来ない。最初は練習日週に2回だったんだけど、あまりに集まりが悪いから週1になったんだ。それでも集まりは悪かったけど。C1は別日に練習をしていたからそっちにコーチという形でもかかわっていたけど、なかなか居場所を見つけられなくて。オレを誘ってくれた監督にしても、まあ日本人とやるのは彼にとっても初めてだったというのはあるけど、そんなにサポートをしてくれる人ではなかった。一回C1である練習をやったときに、うまく意図が伝わらなかった。選手もなんとなくの感じでプレーするし、思った通りの雰囲気にもならない。『うまくいかないな』というのはもちろんオレもわかっていたよ。でもその監督が『この練習、得るものが何もないな』って言って中断させたのね」

平川「えー。それは」

中野「そんで『じゃあ、次の練習するよ』ってなにもなかったかのように変更された。いや、確かにいい練習ではなかった。だから、そう思われてもしょうがないし、言ってもらった方がいい。でも、選手の前で言っちゃダメだよ。あれでチームとの距離感がさらにおかしくなっかったんだね。なんとか1シーズンはやり通したけど、でも、いざこざや、意思の疎通が取れないことが度々あってね。言葉の壁、コミュニケーションの壁。結局、次のシーズンに他クラブに移籍することになった」

平川「コミュニケーションのところでうまくいかないと自信も持ないし、何をするにもストレスが生じてしまいますよね」

中野「そうなんだよね。C2の試合でスタメン決めて、みんなに伝えるじゃない? そうすると『他のスタメンの方がいい』って言われたり。こっちは出場機会をみんなに与えようと試合中にいろいろ交代させようとするんだけど、『キチは勝つ気がないの?』って言われたり。で、そういうのを相談する相手がいなかったんだよね」

平川「いきなり監督ですか?」

中野「そう、アシスタントコーチもいないし、1〜2人手伝ってくれるお父さんがいただけで。でね、週末の試合はC1からいつも助っ人が何人かくるんだけど、レベルの差が大きいから彼らだけで正直試合には勝ててしまう。でも、それだと何のためにC2のトレーニングしてるのかなって思ったりね。C2の多くはないけど、真面目に練習に来ている子どもたちが全力でプレーできて、輝ける場っていうのを考えなきゃいけないんじゃないのかって。うん。でも、大変なことは多かったけど、1シーズンやっていたら、『ああ、やっててよかったな』って思える瞬間がやっぱり何回かはあったな」

平川「えぐいスタートでしたね」

中野「うん。だから、やっぱり現場って大事だね。講習会でどれだけ理論を学んだって、そうした生きた経験がないと何にもならないもの」

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