中野吉之伴フッスバルラボ

【無料コラム】育成年代でサッカーを引退するってなに?大人になってもサッカーを楽しめる社会へ。心でつながりあえる仲間が集う場所を築こう

▼ ドイツのサッカー人口からわかる事実

ドイツではどうなのだろう。

興味深いデータがある。ドイツサッカー協会(以下、DFB)が発表した2016年の選手登録人数は704万3964人。そのうち成人選手が407万2513人。

参考までに日本サッカー協会のデータだと、協会登録選手人数は93万7893人で、成人選手は15万489人。圧倒的に差がある。

この点については「スポーツ財団などで発表されている実施人数と違うのでは?」という指摘を受けたことがある。1979年から毎年実施されている日本生産性本部レジャー白書の2016年報告によると、1年間に1回以上当該スポーツを行った参加人口でサッカーが480万人、フットサル参加人口が150万人になるからだという。

なるほど。ただ「年に一回したことがある」だけで実施人数を数えるなら、ドイツはそれこそ3-4000万人くらいにはなる。そこではない。

《競技人口》という枠組みでの比較からどんなことが考えられるのだろうか。選手がプレーするクラブが協会に登録しているということは、つまりは年間リーグ/大会に参加してサッカーに取り組んでいる人数だ。

ドイツにも楽しむことだけを目的としたリーグはあるし、大学サークルのようにチームを作って活動しているところもある。そうした人たちを含めずに約407万人の大人がサッカーをそれぞれのレベルや立場に応じて真剣にやろうとしているというのはとてもすごいことなのだ。

まずはこの差を認知することが大事だと思う。

▼ ドイツグラスルーツの環境

僕はドイツの地域サッカークラブで腰を据えて活動する中でいろいろなことが見えてきた。リーグを通して何年も同じチームで戦うことで、周囲のクラブの様子がわかってきた。

それぞれのクラブに色と特徴と哲学がある。とかくアグレッシブで強引なまでに勝利を目指すクラブがあれば、プレーのクオリティにこだわり続けるクラブがある。

大きなビール会社がスポンサーでユースコーチでも月々いくらかのお金をもらっているクラブがあれば、トルコ系の外国人が多いことで、スポンサーがケバブ屋台というクラブもある。

ユース世代は強いのに選手の流出を防ぐことができず、トップチームは降格危機にあえぎ続けていたり、逆にトップクラブは強くてもユース育成にお金を賭けないクラブもある。

いろんなカラーを持ったクラブが地域に根付き、年間を通じて各カテゴリーが試合を重ね、その中で様々なドラマが生まれ、様々な交流が生まれていく。大人も、子どもたちも。

こうしたサイクルの中で、ドイツの人々は小さい頃からずっとサッカーをしてきて、サッカーと生きてきている。その輪の中に自分もいることがうれしくて、心地よくて、何から何までが輝いて見えるのだ。サッカーとはこうあるべきだと思えるものがそこにある。

こんな記事を目にしたことがある。

ドイツでサッカー離れが始まる。行き過ぎる商業化の弊害

この著者の言っていることはおそらく正しい。このままマネーゲームが進めばファンが離れていくことは容易に予想できるし、そうなる可能性だって低くはない。でも、彼らがサッカーから離れたりなんてことは起こらないと思うのだ。

逆だ。いま様々な野暮なことが起こっている世界のトップリーグが、サッカーから離れていっているのだ。サッカーから離れているのはファンではなく、彼らの方なのだ。

ファンはいつでもサッカーのもとにいる。ブンデスリーガであろうと、アマチュアサッカーであろうと、構図は変わらない。変わってしまうことがあったら、それはブンデスリーガの方が間違いなのだ。

彼らにとってクラブに関わることが生きがいであり、生活なのだから。自分の居場所なのだから。

それがプロクラブである必要はないのだ。彼らにはみな、地元にあるクラブの一員としてリーグを戦い、存在意義を互いに確かめ合える場所がある。そして、これがなくなることはない。

彼らは本当に仲がいい。つながりあっている。練習だけではなく、時間があるとどこかで落ち合ってビールやワインを飲みに行く。馬鹿話をして、夜通し飲んで、夜中にふざけた写真が送られてきたりする。

試合に向けて必死に取り組み、時に怒鳴り合い、時に励まし合い、いつでも次に向けて歩んでいく。心でつながり合う仲間が集う場所。何年も何十年も一緒に過ごせる関係。それこそがサッカーが持つ何よりも大切で、何よりも大きな魅力なのだ。

ドイツにだって問題はあるし、すべてが美談なわけではない。それでも《子どもが育つ》、そのための環境がドイツにはある。

そんなドイツからの現地情報をこのフッスバルラボでは丁寧に伝えていきたい。

主筆者 中野吉之伴(【twitter】@kichinosuken

>「子どもは育つ・前半」へ

フッスバルラボでできること?!

前のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ