「football fukuoka」中倉一志

【フットボールな日々】:心穏やかになった4年ぶりの街歩き。ヒーロー鉄人28号の力強さを感じ下町情緒に包まれた一日

「夜の街にガオー!夜のハイウェイにガオー!ダダダダ ダーンと弾がくる。ババババ バーンと破裂する」
思わず、そんな歌詞が口を突く。神戸市長田区の若松公園。等身大の鉄人28号を見上げながら、私が子どもの頃、悪の組織を片っ端からやっつけた正義の味方の活躍が昨日のことのようによみがえってくる。そして、その巨大さと力強さに実際に触れ「そりゃ無敵だよな」とつぶやいた。

私の記憶が正しければ、鉄人28号に会いに来たのは2016年以来2度目のこと。J1リーグ第1ステージ第6節神戸-福岡の取材に訪れた一環として立ち寄った時以来のことだ。『なぜJリーグの取材に鉄人28号?』。そう思われる方もいらっしゃるかもしれない。だがアウェイ遠征とは90分間の試合だけを指すのではなく、出かける準備を始めてから家に戻ってくるまでのすべての時間がアウェイ遠征。そのすべてを満喫するのが正しいアウェイ遠征の過ごし方だ。

そして、私がアウェイ遠征で楽しみにしているのは、観光では分からない、その街の素の姿を知ることにある。もちろん、たかだか数時間で街のことを知った気になるのは地元の人たちに対して失礼以外の何物でもないが、その場所で何気ない日々を過ごしている人たちの空気に少しでも触れたいという想いがあるからだ。長田区に足を運んだのは、私のヒーローである鉄人28号がいたことも理由のひとつだが、何より神戸の下町の空気を吸いたかった。

関西淡路大震災での甚大な被害から復興を果たした長田区は、街の中心である新長田駅周辺はマンションが立ち並び、商店街もきれい再整備されているが、街を包む空気感は下町の良さをなくしてはいない。おじさん、おばさんが自転車でひっきりなしに商店街を走っていく姿に関西を感じながらぶらぶらと歩いていく。飲食店を中心に様々なお店が種々雑多と並ぶ姿が楽しい。いたるところにお好み焼き屋があるのは関西ならではだ。そんな中から長田名物の「牛すじぼっかけ」を包み込んだ「ぼっかけ牛まん」を食べ歩き。とろとろに煮込まれた牛すじが口の中にいっぱいに広がる。う~ん、美味い!

歩き進んで行くと大正筋商店街へとたどり着く。雰囲気は昭和の下町のそれ。昭和生まれの昭和育ちで、東京の下町中の下町と呼ばれる荒川で子どもの頃を過ごした私にとっては、たまらなく懐かしい光景が広がる。買い物をしながら世間話に花を咲かせているおばあちゃんたちの笑顔に思わずこちらも笑顔になる。今ではほとんど見ることができなくなってしまった対面販売の魚屋の店先に並ぶ魚を眺めるのも楽しい。

商店街散策の最後は大勢の人たちが並ぶテイクアウト専門店の「いろは」へ。「焼きそば」と「お好み焼き」、そして「いろは饅頭(100円)」と呼ばれる回転焼きのお店。「そばめし(500円)」以外はいずれも400円台とリーズナブル。さすがは下町だ。おじいさんとおばあさん、そしてレジを担当するお姉さんの3人で営むお店は、とうてい注文を裁くのに間に合っていないが、誰一人として文句も言わずにじっと待つ姿に、なんだか穏やかな気持ちになっていく。私がチョイスした「すじ焼きそば(450円)」と「豚玉(430円)」を手に入れるのに30分かかったが、不思議なことに時間は気にならなかった。

味は予想通りのジャンキーな味。そして量も多い。まさに下町の味と量。特別な味というよりも、近所の人たちがいつも食べている普段使いの味わいにほっとさせられる。いまでは各地の名物と呼ばれるものは、いつでも気軽にネットで手に入るようになったが、こうしたソウルフードと呼ばれるものは現地でなければ味わえない。アウェイ遠征に行くからこそ楽しめる味と言えるだろう。福岡へ帰る途中の新幹線の中での夕食になったが、二つは多いかと思われた量も、気が付けばあっという間に胃袋におさまった。

実は、アウェイ遠征時に街歩きをするのは4年振り。コロナ禍では選手に迷惑をかけるようなことがあってはいけないと、宿泊先のホテルとスタジアム以外に足を運ぶことを避け、食事もホテルでコンビニ弁当を食べるという3年間だった。そんなコロナ禍もようやく落ち着きを見せはじめ、様々な制限が緩和されていく中で久しぶりに知らない街を歩いた。今年はいろんな街を歩いて、いろんな空気を吸ってみたい。そんな気持ちになった長田の商店街歩きだった。

[中倉一志=文・写真]

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