「football fukuoka」中倉一志

【フットボールな日々】:あの熱狂と興奮に包まれた素晴らしい日常が帰って来る。Jリーグ31年目の春を迎えて思うこと

今年も熱狂と興奮の日々が帰って来る。

Jリーグを見始めてから31年目。物を書くことを仕事にするようになってから25年目。いい加減、慣れてもいいようなものだが、シーズンが始まる前には、いつも同じ想いを抱く。自分にサッカーが分かるのだろうか。取材しているアビスパのことを正確に理解できるのだろうか。それをきちんとアビスパのファン、サポーターに伝えられるのだろうか。そして何より、私がライターになった唯一無二の理由である「福岡に恩返しがしたい」という目的を果たせるのだろうか。そんな想いが頭の中をぐるぐると回っている。

その一方で、1993年5月15日の記憶が鮮明によみがえる。遠足を待ちわびる子どものように朝早くから目を覚まし、TVにかじりついて特番を見ながらキックオフの時を待った。「スポーツを愛する多くのファンの皆様に支えられまして、Jリーグは今日ここに大きな夢の実現に向かってその第一歩を踏み出します」と高らかに宣言した川淵三郎チェアマン。そして「声は大地から湧き上がっています。新しい時代の到来を求める声です。すべての人を魅了する夢 Jリーグ。夢を紡ぐ男たちは揃いました。いまそこに開幕の足音が聞こえます」という実況担当の山本浩アナウンサーの言葉に心が震えた。

一進一退の展開に身体が緊張感に包まれる。チャンスに身を乗り出し、ピンチにはぐっと拳を握り、そしてゴールネットが揺れた瞬間、すべての感情が解き放たれ、我を忘れて絶叫する。そのどれもが心地よい。毎週、この感動と喜びを味わえることに心が躍ったものだ。

あれから30年。足を運んだ都道府県は一都一道二府39県に及んだ。そのほとんどはJリーグがなかったら足を運ぶこともなかった土地ばかり。地元の人たちが集まる商店街を歩き、地元の人たちが集まる飲み屋に足を運び、地元の人たちが愛するソウルフードと地元の人たちの言葉を肴に盃を傾けるのが楽しい。あたり前の話だが、その土地にはその土地ならではの空気感があり、それぞれに違いがある。そんなものに触れるたびに日本は意外と広いなと感じたものだ。

老若男女、多くの仲間もできた。サッカーがなければ出会うことさえなかった仲間たちだ。共通するのはサッカーを好きなことと、地元のチームを愛するという気持ち。そして、そこには年齢も、性別も、職業も、立場も、場合によっては名前さえ必要がない触れ合いがあり、それがこれほどまでに心地良いものだとは知らなかった。そんな仲間たちと過ごす特別な時間は、いつしか私にとって日常となった。Jリーグが掲げる「百年構想」は確実に日本に広がっている。

そして迎える31年目の春。今年も新しい仲間と出会い、試合の結果に一喜一憂し、そして一週間後にやって来る試合に想いを馳せる、そんな日常が帰って来る。思うようになることもあれば、そうでないこともある。感情の高まりを抑えきれないこともあれば、口をききたくないような状況になることもあるだろう。だが、それもサッカーの一部。何から何までを楽しむ1年間にしたい。そして目標は「リーグ戦8位以上、カップ戦ベスト4以上」。それぞれの仲間が、それぞれの場所で、それぞれのやり方でともに戦う。今年もそんな1年を過ごしたい。

[中倉一志=取材・文・写真]

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